現代アートをケタ違いに集めた男が達した境地 2000点超保有の精神科医・高橋龍太郎の収集哲学

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ワッツでは、近藤亜樹(写真左)、水戸部七絵(写真右)といった30代の若手作家の巨大作品も展示されている(撮影:Keizo KIOKU)

――今後、成し遂げたいこととは。

コレクターとしての僕の役目は半分終わったと思っています。というのも、バブル崩壊後の10年ほどの間、美術館が大ダメージを受けて作品を収蔵する費用が乏しい時期が続いた。その間も、僕はコンスタントに作品を買い続けて、当時芽を出し始めた若い作家を結果的に支えました。そして今は、美術館が再び収蔵をし始めています。僕の役割は減じているといってよいでしょう。

最近日増しに強くなっているのが、僕なりの時代のアーカイブを、アート・コレクションという塊で残したいという思い。しかも、美術館の学芸員がいかにも好きな作家だけでなく、高橋龍太郎という個人が、30年かけて集めたものを残したい。そこで最近は、自分が好きなものだけでなく、強い時代性を感じる作品も意図的に買うようになりました。

――つまり、ご自身の美術館を作るということ?

いやあ、入ってくるお金をすべてコレクション形成に充てているから、自分で美術館を作る余力はありません。どこかの美術館にお世話になるしかないけれど、これだけの作品量を1館では収蔵しきれないので、数館に分けて収蔵してもらうのが現実的でしょう。その国の文化をアピールするという意味では、僕のコレクションのようなとんがったものが美術館にあってもいいと思います。

いずれにせよ、80歳になるまで、あと5年以内に決着をつけなくてはいけないでしょう。

わかりやすい投資先だが落とし穴もある

――投資目的でアートを買う人をどう思いますか。

投資目的であっても、アートに近づいてもらえるのはありがたいことです。今のグローバル資本主義が続くという前提であれば、知識さえつければアートで儲けるのはそう難しいことではありません。むしろ、ほかの投資よりもわかりやすいんじゃないかと思います。オークションでの落札額を追っていけば、値動きはわかりやすいし、悪くない投資先だと思います。

もっとも、落とし穴はあります。ここ1〜2年単位でのオークションの値動きに引っ張られて購入すると、おそらく大きなケガをするでしょう。10年単位で、いろんな作家やジャンルの動きを見る、長期的な投資と考えることが重要です。それなら、損する可能性は低いでしょう。アートとの接し方としても正しい。その結果、お金が生まれるとなれば、いい循環になる。

ただ、儲けたいのならば僕のような好き・嫌いの感情は殺さなきゃいけない。好き嫌いをいったうえで、しかも儲かるなんて、それではバチが当たります。有能なギャラリストであれば、儲けたいコレクターに対して適切な作品を薦めるだろうから、そう損はさせないと思います。そして、投資を通じて10年、20年、100年と買い手に選ばれる絵を見ていけば、おのずと歴史的に重要なものが見えてくるようになる。

もっとも、僕は1代限りのコレクターだと認識しているので、こうした歴史のことを考えることもなく、ただ黙々とコレクションを続けています。

『週刊東洋経済』2月20日号(2月15日発売)の特集は「アートとお金」です。
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印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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