現代アートをケタ違いに集めた男が達した境地 2000点超保有の精神科医・高橋龍太郎の収集哲学

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現在、天王洲アイルで寺田倉庫が運営するコレクターズミュージアム「WHAT(ワッツ)」にて、高橋氏のコレクションの一部を鑑賞できる「- Inside the Collector’s Vault, vol.1- 解き放たれたコレクション展」が開かれている(撮影:KeizoKIOKU)

――中でも印象的な作品は?

何といっても、1960年代の思い出とつながる草間彌生の作品『No.27』を1998年に購入したときは感無量でした。草間が30年ぶりに油絵を描いたというので、ギャラリーに出向いて、うれしくなって2点ほど購入しました。1点200万円くらいしたかな。そのときは、それまでの30年間の「負け戦」にはじめて勝利したような気がしました。

同じ頃に集め出したのが、会田誠と山口晃。1997年に、アートフェアで初めて会田誠の『紐育空爆図(にゅうようくくうばくのず)』を見たときは感激しました。かなり安く売られていたのですが、そのときは会田誠の作品を1つも持っていなかったために判断がつきかね、購入を見送りました。そのうちにギャラリーが僕に買ってくれないかと指名してきて、買ったときには200万円近くになっていたでしょうか。

山口晃にも強く惹かれました。彼がまったく売れていなかった頃の個展で「ここからここまで、3分の2をください」と。すでに値段が上がっていた村上隆や奈良美智も、苦労をして購入し、コレクションに加えていった。こうして、アートのコレクションに拍車がかかっていきました。

「僕のような買い方はお勧めしません」

――購入資金はどうやって捻出されてきたのですか。

高橋コレクションの中核をなす作品を購入していた頃には、少しお金がありました。バブル前にオーストラリアの土地を購入し、10倍くらいの価格で売れたり、株でも儲けたりしていた。その資金が尽きかけたころには親の遺産が入りました。今も医師として働いているので、生活をカツカツに切り詰めれば、まあまあコレクションは続けられる。

ただ、僕のような買い方は本当にお勧めしません。お金があれば作品を買ってしまうから、最悪の場合は老後資金ゼロ。それが現実です。

――日本はGDPの規模に比してアート市場が小さく、コレクターの数も少ない。なぜだと思いますか。

欧米にはパトロン文化があるので、購入した作品を美術館に寄付するとその分の所得税が浮く税制上のバックアップがあります。さらに、社交上ではアートの教養が必須です。対して日本は、そのいずれもない。コレクターが育ちにくい環境だと思います。

本来なら、富裕層のコレクションを国の文化遺産や観光資源へとうまくスライドさせていくのが上等な文化政策であるはずですが、今の日本はそういう流れにありません。残念なことです。

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