あのVWが運営する「テーマパーク」驚きの中身 テーマパーク「アウトシュタット」の魅力

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ホテルは馬蹄形をした5階建て? その表情はしっとりと落ち着いている。大都会のホテルのようなきらびやかさは一切ないが、上質なホテルであることは直感的にわかる。でも、端正でシックでな佇まいのホテルの背後に、古びた4本の高い煙突が「突き出している」ように見える……アンマッチの極みともいえるようなその光景は、一度見たら忘れられない。

ちなみに、「古びた4本の煙突」とは、ホテル背後の運河を挟んで建つ石炭による火力発電所の煙突。かつて、VW本社工場に送る電力を生み出していた発電所だ。しかし、その煙突から煙が吐き出されることはもうない。現在、この発電所は「ガスタービン・コンバインドサイクル」に入れ替える工事が進んでおり、21~22年には完成するとのこと。

と同時に、「煙突はもちろん、煉瓦造りの工場建屋もドイツの重要文化財に指定されているので、なくなることはない」とも聞いた。うれしい話である。外観と同様、ホテル内もシンプルな装いだが、上質さと清潔感は超一級。少なくとも、僕にとっては「最高に寛げるホテル」だ。

自分の家に帰ったような寛ぎと安らぎ

このホテルの「特別な部屋」を見せてもらったことがある。特別な部屋とはいっても、広くてきらびやかで贅沢な……いわゆる「スペシャル・スイート」といった類いの部屋ではない。いや、そんなものとは、ある種対極にあるような佇まいの……もし、目隠しでもされて連れて行かれたら、誰もホテルの部屋だとは思わないだろう……部屋だった。

広いメインルームは、落ち着いた書斎のようであり、大きな壁面を埋めた本棚には新旧多くの本が……それも、立派な本が仰々しく並べられているのではなく、ある種の生活感が漂うような佇まいだった。テーブルや椅子などの家具も、華美なものは一切ない。しかし、さり気なく置かれたような飾り気のない椅子が、アールデコ期の高名なアーチストの作品だったりするのだ。

いくつかのサブルームも同様の雰囲気であり、とにかく「自分の家に帰ってきたような寛ぎと安らぎ」で包まれる……そんな感覚を僕は感じた。

すでに話したが、高い宿泊費を払って泊まるスペシャル・スイートの趣はまったくない。「フェルディナント・ピエヒの個人的な友人知人を招くための部屋なんだろう」と、僕は思った。大切な人たちが「自分の家に帰ったように寛げる部屋」……きっと、そんなコンセプトで細部にまでこだわった答えなのだろうと思った。

ちなみに、この部屋に泊まった日本人第一号は、当時のソニー社長、出井伸之と聞いた。フェルディナント・ピエヒとの個人的関係も強かったようだが、納得だった。

アウトシュタットで1日を過ごし、リッツ・カールトンで一夜を過ごす……もう一度、そんな旅がしたいものだ。

(文:岡崎宏司/自動車ジャーナリスト)

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