東急「定期客つなぎ留め」へ優遇策あの手この手 田園都市線で「新しい通勤スタイル」の需要深耕

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車内を「シェアオフィス」と位置付け、電車の定期券保有者は割引になるという通勤高速バスは、働き方の変化や定期券利用者の減少を踏まえたサービスである「デント」の象徴的な存在だ。

通勤高速バスの車内では、ひざの上に載せてパソコン作業などができるトレイの貸し出しもある(記者撮影)

東急は近年、MaaS(マース)戦略に力を入れている。MaaSは、スマートフォンなどIT技術を活用して鉄道やバス、タクシー、自転車などさまざまな交通手段を1つのサービスとして結び付け、スムーズな移動を可能にしようという取り組みだ。伊豆エリアではJR東日本などと組み、観光客向けの「Izuko(イズコ)」の実証実験を2018年4月以降、3回にわたって実施している。東急沿線でも2019年1~3月にたまプラーザ駅周辺を対象とした「郊外型MaaS」の実験を行った。

デントもその流れにある取り組みだ。本格的な検討が始まったのは、「イズコ」の第2弾(フェーズ2)が終了した2020年3月ごろ。コロナ感染拡大が深刻化しつつあったタイミングだった。

コロナ禍で戦略見直し

「もともと沿線で本格的に(MaaSを)やろうと思っていたが、コロナ禍で移動や働き方が大きく変わる中、今の生活様式に合ったサービスをデザインすべきと考えて組み立ててきた」と、森田課長は語る。

「DENTO(デント)」の画面。スマートフォンアプリの「LINE」上で会員登録や商品選択、決済などを行う(記者撮影)

例えば、通勤高速バスは以前の郊外型MaaS実験でも実施したが、その狙いは首都圏有数の混雑路線である田園都市線のラッシュを避けた通勤手段の提供だった。「それがコロナ禍で意味合いが変わり、非接触で移動できるようにという目的にどんどん変化していった」(MaaS戦略担当の豊田洋平さん)。さらにテレワークの普及を受け、単に接触を避けられる移動手段というだけでなく「仕事ができる移動空間」へと位置付けが変わった。

そして、コロナ禍以前に検討していた内容との最大の違いは「定期券を前提としたサービスかどうか」(豊田さん)だ。

デントのサービスは大きく分けて3つの柱がある。通勤高速バスや帰宅時の相乗りハイヤーといった「移動」、沿線のシェアオフィスなどの「テレワーク環境の提供」、そして東急線全線に1日100円で乗れるチケットや沿線施設の割引クーポンなどを利用できる「移動目的および体験価値の提供」だ。

デントの会員登録は誰でも可能だが、サービスは東急線の通勤定期券保有者限定、あるいは割引などの優待特典があるものが目立つ。「東急電鉄の収入の4割は定期券。定期券を持っていることで得られる魅力をつくり、利用者をつなぎ留めようとする必要が出てきた」と森田課長はいう。今回の実証実験は4月28日まで。定期券の買い替えが発生しやすい年度末を含めることで、デントが定期券利用者の引き留めにつながるかどうかを検証する予定だ。

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