東急「定期客つなぎ留め」へ優遇策あの手この手 田園都市線で「新しい通勤スタイル」の需要深耕

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森田課長によると、デントの目標は「3カ月半で会員数2万人、アクティブユーザー1万人」。開始から約1カ月が経過した2月14日時点での会員数は約1万3000人、アクティブユーザー6000人といい、「今のところまあまあのペース」という。

通勤高速バスやシェアオフィス利用など各種チケットの販売数は同日時点で約4600件。とくに売れているのは定期券保有者限定で発売する、東急線全線や東急バス全線がそれぞれ100円で1日乗り放題になるチケットだ。東急線全線の1日乗車券「東急線ワンデーパス」の本来の価格は大人680円、バスの1日乗車券も520円のため大幅な割引だ。

だが、「運賃は割り引いても、東急グループトータルで見ればペイしている」と森田課長はいう。沿線商業施設のクーポン配信などが移動需要を生み出し、各施設での買い物などに結び付いているためだ。スマホの移動データによると100円チケットの利用は全線に分散しており、新たな移動による消費効果が生まれていることが確認できるという。

森田課長は「交通費を下げることで移動を生み、さらに消費を生み出すモデルはありなのではないかとチャンスを感じている」といい、「どの属性の人にどんなタイミングでメッセージを配信すれば来店につながる、といった『勝ちパターン』を見つけていきたい」と意気込む。

今後の可能性を見出せるか

ただ、今のところ販売数は100円チケットが全体の約9割と圧倒的で、例えば新たな移動手段の1つとして用意した相乗りハイヤーの利用は「まだ20件行っていない」という。

DENTO会員が利用できるテレワーク用スペース。写真はスポーツ施設の一角を活用している例だ(記者撮影)

相乗りハイヤーは、定期券保有者を対象に都心から横浜市青葉区内のユーザー宅まで3980円で乗車できるというサービス。デントの目玉の1つだが、利用は伸びていない。「シェアオフィスの利用や通勤高速バスなど、新たな生活様式に合わせたサービスが時代に合っているかを見極めたいが、わかりやすい100円チケットに流れているのが現状」(森田課長)。新サービス浸透への道のりは長そうだ。

今回の実証実験の後も、デントはエリアを拡大するなどして展開していく予定だ。森田課長は「こういった新たな試みは、生む段階からマネタイズと言っていると何も生まれない。最初の2年くらいは試行錯誤を繰り返し、どうすれば移動を生んだり購買につながったりするのか、仮説を立てて検証していくことが必要」と話す。

鉄道建設とともに郊外を住宅地として開発し、都心への通勤者に利用してもらうというこれまでの大手私鉄のビジネスモデル。東急、そして多摩田園都市の開発と一体で発展してきた田園都市線は象徴的な例だ。その路線の通称である「田都」=デントの名が付いた新サービスは、鉄道会社に新たな「勝ちパターン」をもたらすことができるだろうか。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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