気仙沼 男山本店の再建に見た復興10年の重み 震災で建物が倒壊、変化を恐れなくなった

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東日本大震災後の津波で倒壊した店舗(写真:男山本店)

事業活動を続けながら芽生えたのは、「蔵へのこだわり」と「変化への思い」だ。

「3月12日、蔵の中を調べていたら、奥にあった2本のタンクの“もろみ”(発酵中の原料の液体)が無事に残っていたのです。これを何とか酒にしたい、と考えました」

電気と水が使えない中で試行錯誤しながら、酒造りに成功。この様子がメディアに報じられ注文も殺到する。だが翌年、酒造りの責任者である杜氏が「辞めて故郷に帰りたい」と伝えてきた。

菅原氏がアタマを抱えていたとき、杜氏が後継に指名したのは営業出身の柏大輔氏だった。

「柏は営業の傍ら、2002年頃から開発も行い、新酒造りにも関わったことがある人物です。震災を経験し、さまざまな経験を得た私は変化をいとわなくなり、彼に委ねました」

営業担当から杜氏に転職した柏氏 (写真:男山本店)

この柏氏が真価を発揮する。やがて新酒は南部杜氏の品評会で純米吟醸部門の1位に輝く。現在は生産体制も進化。以前は秋から冬だったが、ほぼ通年で生産できるようになった。

震災当時、北海道大学法学部の学生だった菅原氏の長男、大樹氏は、家業を継ぐことを決意。入社後に実務経験を積み、唎酒師やソムリエの資格も取得。現在は海外事業を担当する。

気仙沼観光の現状も紹介しよう。コロナ以前、当地が力を入れていたのが「ちょいのぞき 気仙沼」というプログラムだ。 (https://kesennuma-kanko.jp/cyoinozoki/

「ちょいのぞき 気仙沼」の現在

それまで似たような冊子が30種類もあった観光情報を一本化。現地で配られる小冊子には、日時のカレンダーとプログラム内容が紹介されていた。すべて有料なのも特徴である。

たとえば「モーターパラグライダー遊覧飛行体験」(一般8000円、高校生以下7000円)は、インストラクターと一緒に上空からパラグライダー飛行ができた。

有料にしたのは、実施する側が本気になるからだ。企画する各社にも「顧客満足と利益確保が両立できる、おもてなしプログラムにしよう」を掲げた。今どうなっているのか。

「2019年までは実施しましたが、コロナの影響でできない企画も多く、全体のパイは縮小しています。一方で『内湾クルーズ』のような新企画も始めました。気仙沼湾を観光船で巡るコースで、観光客に人気となっています」(気仙沼商工会議所会頭としての菅原氏)

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