悪事暴いても「裏切り者」内部告発の悲しい現実 「ゴキブリ」「ウジ虫」罵詈雑言を浴びせられた

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――内部告発の直後、非難の連続だったわけですね。当時はインターネットもさほど普及していませんでしたが、ネットやSNSが隆盛する現在ならもっとすさまじかったかもしれません。こうした反応は予想していたのでしょうか。

それらの手紙だけではありません。嫌がらせの電話も来ました。道警内では「原田のおやじは狂った」とずいぶん言われたようです。札幌の高級住宅街・円山地区に裏金で豪邸を建てたとか、愛人がいるとか。そんなうわさも流されました。

原田宏二(はらだ・こうじ)/元北海道警察警視長。著書に『警察内部告発者』『警察崩壊』『警察捜査の正体』など(撮影:フロントラインプレス)

当然ながら、誹謗中傷があることは覚悟していました。警察関係者からの、です。

私は在職中に裏金の一部を受け取っていましたし、必ずしも品行方正な模範的な警察官ではありませんでした。道警がやろうと思えば、犯罪をでっち上げて私の身柄を拘束することもできたでしょう。

ですから、弁護士の助けが必要でした。実際、裏金告発の記者会見をやる前は弁護士と入念に打ち合わせました。

むしろ、嫌がらせよりも心配だったのは、裏金を立証する物証を持っていなかったことです。報道機関や道民が信用してくれるかどうかも心配でした。在職時代から書いていた日記はありましたが、(真実のお金の流れを記した)裏帳簿とは性質が違う。日記は裏金の存在を直接裏付けるものではありません。立証価値は低いのです。

のちに道警は内部調査を実施しましたが、ベースにしたのは道警に保存されていた正規の会計書類です。正規の書類には真実が書かれていないのですから、それをいくら調べても裏金システムの真実は解明できません。

警察側の意をくんだジャーナリストへの違和感

――会見当日にも忘れられない出来事があったと聞きました。

記者会見は午後の予定でしたが、午前中に開催の予告を道警記者クラブに連絡しました。その直後、何人かの新聞記者やジャーナリストなどから「会見は中止したほうがいい」と連絡があったんです。携帯電話で延々と説得されて……。

会見に同席予定の弁護士の事務所に来た者もいます。事務所のドアの前で、涙を流しながら「やめてください」と。会見場だった札幌弁護士会館に行くと、会見が始まる前にも「今からでも遅くはない、ここを出よう」と説得してきたジャーナリストもいます。

驚きでした。ジャーナリストであれば応援してくれるものと思い込んでいました。実際は、警察側の意をくんでの動きだったようです。

会見が終わって弁護士事務所に戻り、打ち合わせを終えて外に出ると、階下には、またジャーナリストが待っている。彼は「とにかく奥さんを連れて札幌を離れろ」と言う。

そんなことはできません。もし、私が姿を消せば、記者会見そのものの信憑性が疑われます。いったい、ジャーナリストとは誰のためにあるのでしょうか。私が「犬も飼っているのでそんなことはできない」と断ると、彼は「犬は自分が預かる」とまで言いました。

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