在宅勤務で変わる「日本の働き方」の究極形態 外資コンサルや弁護士など「プロ集団」の働き方

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筆者の知識、経験によれば、他のプロフェッショナル組織も同じような人事と組織と働き方を採用している。弁護士事務所では、パートナーとアソシエイトに分かれ、パートナーは収益責任を負う人、アソシエイトはパートナーが取ってきた仕事を実行する人というように分かれている。

パートナーはクライアントにベストなサービスが提供できるように、その時手の空いているアソシエイトの中から取ってきた仕事の分野に詳しい弁護士を選んで、チームを組成する。アソシエイトはビラブル・アワー(クライアントに請求した時間数)で評価され、ビラビリティーが低いアソシエイトが冷や飯を食わされるのもコンサルタントと同じである。

他のプロフェッショナル組織はどうかと言うと、外資系の投資銀行、ヘッドハンター等の場合、報酬のもらい方が、タイムチャージではなく、成功報酬制なので、ビラビリティーの管理ではなく、売り上げ・収益への直接的な貢献度合いで評価される形になっている。

いずれにしても、人材の専門性が高く質の高いサービスを提供しているプロフェッショナル組織では、クライアントに対して最高のサービスを提供できるようにチームが編成され、チームメンバーの評価は、クライアントに対する売り上げに直接的に結びつけられているのである。

外資系コンサルティング会社、その他のプロフェッショナル組織を見ると、働き方、組織、人事には共通性が見られる。つまり、どの組織でも、一人ひとりのプロフェッショナルの専門性、スキルが重視され、彼らはその能力に従ってプロジェクトに参加できるかどうかが決まり、昇進や報酬は、クライアントに対する売り上げにどれだけ貢献したかで決まってくる。

在宅勤務が「働き方」を変えるきっかけに

これに対し、現在の日本企業、とくに大企業では、社員一人ひとりの評価が、クライアントへの売上貢献と結びついている例は極めて少ない。社員は大企業にあまたある組織の1つに貼り付けられ、社内でうまく調整能力を発揮できる人が評価されるという仕組みになりがちだ。他部署との調整能力で評価されるということになると、その会社での経験が長く人脈が豊富な人が有利であるから、年功重視の評価につながりやすい。

こうした方式をとっていては、若い社員もスキルを高める努力をしなくなり、その会社の部長、課長しかできない集団が築きあげられる可能性がある。この状況を脱するには、外資系コンサルティング会社のような組織、人事制度がヒントになりそうだ。

社員をその専門性によってグループ化し、専門能力の向上を求める。新規プロジェクトを立ち上げる時には、グループ・リーダーが、必要なスキルを持つグループからベストなメンバーを人選する。社員の評価は、どれぐらいプロジェクトに参画できたか、アウトプットに貢献したかで決める。昇進昇級もこれにリンクさせ、できる者、できない者をハッキリさせていく。

パフォーマンスの改善できない社員には、自分の得意分野を見つけること、そのスキルを獲得することを促し、社員全体のブラッシュ・アップを図っていく。

もちろん日本のすべての職種が、コンサルティングのような専門スキルが必要とされるわけではなく、従来型の組織形態や人事制度が適している場合もある。しかしグローバルな企業と競争していくためには、これまでの終身雇用、年功序列にこだわらず、心を鬼にして組織、人事、働き方の改革に挑戦していくことも求められそうだ。

コロナ禍は、日本経済、日本国民の生活に多大な悪影響を与えているが、在宅勤務の広がりにより、日本企業の働き方を変えるきっかけを与えてくれた。在宅勤務で必要になってきた働き方改革、組織改革、人材改革の方向性に磨きをかけることで、日本企業の競争力の向上がもたらされるものと期待される。

植田 統 国際経営コンサルタント、弁護士、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授

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うえだ おさむ / Osamu Ueda

1957年東京都生まれ。東京大学法学部を卒後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。ダートマス大学エイモスタックスクールにてMBA取得。その後、外資系コンサルティング会社ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)を経て、外資系データベース会社レクシスネクシス・ジャパン代表取締役社長。そのかたわら大学ロースクール夜間コースに通い司法試験合格。外資系企業再生コンサルティング会社アリックスパートナーズでJAL、ライブドアの再生に携わる。2010年弁護士開業。14年に独立し、青山東京法律事務所を開設。 近著は『2040年 「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)。

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