企業が人材教育・スキル開発に今まで以上に注力し始めることは、元来人材育成を生業としてきた大学にとっては他人事では済まない。
これまで「若手人材の育成マーケット」において、大学は唯一といってよいプレイヤーだった。社会環境の変化を受けるかたちで近年は社会人を対象とした「リカレント教育」の推進も顕著になってきているが、企業が人材育成に大きな可能性を見出し、これまでにないペースで人材育成マーケットに参入する事例が増えている。
特にデジタル化の流れを受けるかたちで、世界的なデジタルソリューション企業やデータサイエンスに特化した企業なども人材育成サービスに力を入れ始めている。顧客企業がデジタル人材不足に悩む声を受けて、アクセンチュアでも「Talent Discovery Program(タレント・ディスカバリー・プログラム)」として「社員のデジタル化の支援」や「次世代の経営を担いうる人材の育成」を体系化したメニューとして提供を開始している。
従来存在する人材開発企業だけでなく、大手一般企業も自社で培ったタレント(人材)開発のサービスやプログラムを持って市場に入ろうとしている。そして大学同士だけが競合した時代は終わり、企業と大学が入り乱れて互いの価値やサービスを磨き直す時期に入ると筆者は考えている。
「研究開発で未来を創る」or「人材輩出で社会に貢献」
そして社会のパラダイムシフトが進む中、大学も「革新的な研究開発などによって時代をリードする未来創造型の大学」と「時代の要請に応える人材を育成・供給することで社会への貢献にコミットする同時代型の大学」への二極化が始まると考えている。
大学は本来的にも歴史的にも研究機関であるが、人材育成機関としての側面も持っている。現代社会ではむしろ「人材をマーケットへ供給」する組織(人材輩出)としての役割に軸足を置く大学が割合のうえでは多い。
この研究機関と人材育成機関というポジショニングの違いがより先鋭化されるだろう。なぜ先鋭化するのか? それは最初に述べた「出口としての企業側の体質の変化としてのジョブ型への移行」が大きな理由であるというのが筆者の見立てだ。
それぞれの大学が自学の近未来の姿を描いてどのようなポジションを築くのかを考え、市民・社会・大学の相関性をとらえた「横並びではない大学」をデザインする必要性に迫られる。その中で各大学はいずれか一方を「大方針」のような形で選択することになる。
実際、国内大学の学長や理事クラスと接する中でも、前者(研究を中心とした未来創造型)は「50~100年後の日本や世界のグランドデザインを描く大学」を志向し、後者(人材輩出型)は「100年先まで日本経済を支える人材を育成し続ける大学」の二極化を実感している。
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