桑田真澄が高校球児の「投げすぎ」を危惧する訳 導入から1年の球数制限「1週間500球」に疑問

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徳島大学医学部整形外科の松浦哲也医師は、40年前から小学生を対象に野球ひじ検診を行ってきた徳島大学の取り組みを紹介した。障害の早期発見と実態調査を兼ねて行なわれたこの検診結果に基づいて、小学生は「1日50球、1週間200球」という基準が提言された。松浦医師は「投球数制限は野球ひじ障害の有効な予防手段である」としめくくった。

群馬県の慶友整形外科病院の古島弘三医師は、自身が小中学生に対して行った野球ひじ検診の結果を紹介した。これはドミニカ共和国で行った同様の検診結果と大きく乖離。日本の野球少年の障害は深刻だった。指導者の勝利至上主義、モラルの欠如によって、子どもたちが野球を断念したり、障害を負ったりする危険性があることを指摘した。

パネルディスカッションの様子©JOSKAS-JOSSM 2020

新潟リハビリテーション病院の山本智章院長はリモートで参加。新潟県高野連が球数制限の導入に至った経緯を語った。

新潟では2009年のシンポジウムを契機として新潟県青少年野球団体協議会が設立され、高校以下の各団体、医療関係者も参加し、広範な議論を経て新潟県高野連の球数制限が決定されたという。

東京明日佳病院院長で、日本高野連の有識者会議のメンバーだった渡邊幹彦医師は、アメリカでは子ども時代はTボール、ソフトボールで、投げずに打つことがメインの野球なのに対し、軟球を発明した日本は子ども時代から全力投球をするようになったこと、そして日本独特の「甲子園」の存在が青少年の肩ひじの酷使につながっていると説明した。

不足する投球障害に関するデータ

この4人の整形外科医は、それぞれ異なる視点から提言を行っており「球数制限」を論じるうえでベストの顔ぶれだと言えるだろう。筆者は4人の発表から、改めて論点が浮き彫りになったと思った。

1つは、日本では青少年の投球障害に関するエビデンスが極めて貧弱であること。アメリカでは青少年の投球数、間隔に関する規制「ピッチスマート」を導入するにあたり、多世代の若者の投球数と障害の関係を、20年以上にわたって広範に調べ上げたデータに基づいて数字を決めた。しかし日本では本格的な調査は、松浦医師が紹介した小学生対象の徳島大学の事例などわずかしかない。「球数制限」を決定する医療面での検証が決定的に不足しているのだ。

もう1つは、「1週間で500球」という「球数制限」の根拠について。この数字は1995年の臨床スポーツ医学会の「青少年の野球少年に対する提言」に基づくものだが、これが小学生の調査によって導き出された「1日50球、1週間200球」からの類推で出てきた「腰だめの数字」であり、高校野球の実情を反映したものではないことを再認識した。

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