日本の医療崩壊を示唆する「危険な数字」の正体 なぜ医療従事者はどこも「余裕がない」のか?

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病院もビジネスなのでこれらの病床を空けたまま放置することはありえない。医師数や看護師数が平均水準であれば、病床数が多い分だけ1人の医師や看護師が担当する患者数は増える。単純計算では諸外国の約3倍になるので、普段から医療従事者に過度な負担がかかっていることが推察される。

筆者は外国の病院に入院したことはないが、海外在住者の話では、患者1人に対する医療従事者の数は体感的に3~4倍ということなので、おそらくこの統計は現実を反映しているだろう。

病院は人員の融通にも制約が

日本の病院では、少ない看護師が多くの患者を担当するケースがあるので、これでは余裕がなくなるのも当然だ。疾患を抱えた国民が日本にだけ多いとは考えにくく、入院の必要性が低い患者まで受け入れている可能性(あるいは介護との連携が取れていない可能性)について考えざるをえない。

コロナ患者の場合、感染対策の必要性から通常の2倍の従事者が必要となる。病院側の負荷が極めて大きいので、日常的にまったく余裕がない病院の場合、患者を受け入れたくても受け入れられないというのが正直なところだろう。

もっともコロナ危機によって、一般疾患の患者数は減少している。人員が余剰となっている科目やほかの病院などから従事者を派遣し、全体最適化を行うのは不可能ではないと思われる。だが医療行為というのは制約が厳しく、一般企業のように簡単には人員を融通できない。

結局のところ、医療制度を統括する政府が戦略的かつ実務的な対策に取り組まない限り、状況は改善しない。日本は制度設計が雑で、現場に過度な負担がかかるケースが多いが、医療もその1つと考えてよいだろう。

<本誌2021年1月19日発売号掲載>

加谷珪一
経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。http://k-kaya.com/
「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

世界のニュースを独自の切り口で伝える週刊誌『ニューズウィーク日本版』は毎週火曜日発売、そのオフィシャルサイトである「ニューズウィーク日本版サイト」は毎日、国際ニュースとビジネス・カルチャー情報を発信している。CCCメディアハウスが運営。

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