日本の“ギリシャ化”が緩やかに進んでいる--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授
事実、全国に見事に舗装された道路が敷き詰められているが、どこにも車は走っていない。子供たちは地方から都会に移り、高齢の両親は地方に取り残されている。
東京の雰囲気だけを見ていると、状況判断を見誤る。20年前、日本の労働者は年末に巨額のボーナスを受け取っていた。しかし今日のボーナスはすずめの涙程度だ。物価下落のおかげで労働者の購買力は維持されているが、それでも10%以上低下している。企業が“終身雇用”を捨て、非正規雇用を増やす以前から、雇用は不安定になっている。
政治的な安定性も数年後に大きく揺らぐ
まだ日本は危機に陥っているわけではないが、財政状況は厳しくなりつつある。
今まで政府は、低利で巨額の長期債務を国内で調達することができた。注目すべきは、日本の貯蓄者が国債の95%を購入していることだ。おそらく、80年代のバブルがはじけ、株価や不動産価格の暴落でやけどを負った貯蓄者は、通常のインフレ状況とは異なり、緩やかな物価下落で国債の(実質)利回りが上昇しているため、国債を安全な債券と見なしているのだろう。
今まで日本はなんとか持ちこたえてきたが、将来、深刻な課題に直面するのは間違いない。
何よりもまず、異常な低出生率と外国人労働者導入に対する抵抗感から、労働者の供給が落ち込む。
さらに日本は労働者の生産性向上を高める方法を見つけ出さなければならない。日本の農業と小売業、政府部門の非効率性は有名な話だ。世界有数の輸出企業でさえ、古い人間関係のネットワークにとらわれて、不採算部門や労働者を整理するのが難しい。
高齢化がさらに進み、人口が減り始めれば、人々は後生大事に保有してきた国債を売却し始めるだろう。そうなれば、市場は国債に高い金利を要求するようになり、日本はギリシャの悲劇と同じ状況に直面することになるだろう。