救急車が渋滞「英国のコロナ病棟」壮絶な現場 「変異種発生」で現場の風景は再び一変した

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コロナ患者が次々と救急外来に来院してくる。しかも救急来院するのはコロナ感染患者だけではない。事故に遭った患者や、腹痛や胸痛を訴える患者も通常通りにいて、区域を分けて待たされる。たちまち救急外来のスペースは患者でごった返し、やむをえずに廊下にストレッチャーを置いてそこに患者を入れる。しかしそのスペースさえもなくなってしまう。するとどうなるのか。

救急車が患者を救急搬送してきても、患者を救急外来に移すスペースがない。仕方なく、救急車内に患者を乗せたまま、救急外来内に患者を移動させるスペースができるまで待機せざるをえない。救急外来に患者を移して担当看護師に申し送りを終えるまでが救急隊員の業務だからだ。感染患者であるゆえ、「空きができるまでどこか適当に」と、簡単に移動をさせるわけにもいかない。

救急車も「救急要請に応じられない」

こうして救急外来に空きができるまで、患者を乗せた救急車が病院の敷地内で列を作って何台もたまっていく。本来は救急要請があれば直ちに出動できるように待機をする救急車が、身動きがとれないのだ。従って、救急要請があっても出動ができない。

だから1人でも、一刻でも早く、救急外来の入院待ちの患者を病棟に移さなければならない。それは誰もが承知だ。しかし、ベッドがないものはない。すでにいくつもの病棟を潰してコロナ病棟に変えてきた。

ICUを除いても最近はつねに200人以上のコロナ感染患者が、筆者の勤務先には入院中だ。この数はほかのイギリスのNHSでも標準的な数字だろう。しかし、コロナ感染病棟を増加するにも限界がある。

救急車がずらりと院内の敷地内に患者を乗せたまま待機する光景は、イギリス中のあちこちの病院で見られ、何度も報道をされてきた。ロンドンでは救急車サービスの非常宣言も出された。もっともこの光景は冬のインフルエンザの時期には毎年、多くの病院で見られるが、ここまで大規模なものはNHSで勤務して8年目になった筆者の記憶にはない。

手術キャンセルを伝える事務員たち、ベッド管理をするベッドマネジャー、そして現場の医療従事者たち。皆、言葉に表せないプレッシャーを受けながらギリギリの状態で仕事を続けている。

「いつか終わる。永遠には続かないさ!」

野戦病院を彷彿させるような今の状態の中、それでも楽天的にいようとする同僚たちに囲まれていることが、唯一の救いのような気がする。

ピネガー 由紀 イギリス正看護師、フリーランス医療通訳

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Yuki Pineger

日本での看護師免許や勉強経験はなくイギリス義務教育(GCSE)、高等教育A-levelを経てマンチェスター大学看護学部卒業。現在は、イギリス中部に在住してNHSの大学病院に勤務。通常は外科部門に所属して手術前後の患者看護に当たる傍ら、学生指導も担当している(2020年4月から新型コロナ感染病棟に期間未定で異動中)。

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