アップルの有力取引先が食用コオロギを売る訳 近い将来、食べるのは「当たり前」になる?
だが、増産にはいくつかのハードルがあるという。1つは「歩留まり」だ。同社が飼育しているコオロギは、フタホシコオロギとヨーロッパイエコオロギの2種類ある。この2種類は一年中養殖が可能で、しかも日本で生息しているコオロギのように高くジャンプしないため、比較的育てやすい。
だが、問題は共食いが起こることだ。コオロギは光を嫌う性質があるため、光を当てることである程度共食いを防げるが、それでも3000匹飼育した場合、最終的に1000匹しか生き残らない。
生産量を増やすには、給餌、給水、清掃、回収といった過程でさらに人手が必要になる。そのため今のところ年間1.5トンの生産が限界だという。だが、同社では人手を必要とする作業の半自動化、機械化に取り組んでおり、「将来は需要の大きいペット向け、養殖魚向けのほかに、食用の供給をさらに拡大していきたい」。
コオロギは新たな市場としてまだ始まったばかりで、現状、採算は取れていないが、荒神社長はビジネスとしての将来性を感じているという。
「慢性的に不足している養殖魚エサ向けの魚粉は、市場規模が数千億円ほどといわれている。この養殖魚飼料市場で原料としてのコオロギを普及させていきたいと思っています」
10年後「年商5億円」、食用の夢も膨らむ
さらに、食糧危機に向けての食用コオロギ市場の拡大も見据える。
現在、同社は昆虫食を専門とする「TAKEO」の「二本松こおろぎ」シリーズや、やはり同分野で名をはせる「ANTCICADA」(アントシカダ)に素材を提供するなど、コオロギ関連は続々と商品化されている。
それ以外でも、エビなどの甲殻類に近い味や、姿形がわからないようにパウダー状にするなど加工もしやすい特性を生かし、製粉、製麺、調味料など、さまざまなジャンルの企業が採用したり、興味を持っている段階だという。
そもそも昆虫というだけで好き嫌いが分かれるし、アレルギーなどで食べないという人もいる。それでも荒神社長は「高タンパクといった栄養や低環境負荷という面はもちろん、災害が頻発する中、保存食としてのコオロギにも可能性を感じていただいています」と手応えを口にする。現在コオロギでの食糧事業は年商5000万円ほどだが、10年後には5億円程度まで増やしていきたいという。
当然、生産体制の拡大のほかに、味の改良には一段と気を配る。筆者も前出の二本松こおろぎの「福島・ソース味」という煮干しを試食してみた。確かに食感はエビなど甲殻類の素揚げに近い。一方、後味に多少の「えぐみ」を感じるため、素材を生かした形だと、やはり好き嫌いは別れそうだ。
高タンパク、低環境負荷と大きな可能性を秘めているコオロギ 。近い将来、食糧危機が本格化した場合、コオロギ関連の食品が当たり前のように食卓に並ぶ日がやって来る日もそう遠くないかもしれない。
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