国の責任問う原発訴訟、「本丸」高裁判決の行方 判決次第では、国の原発政策は行き詰まりも

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避難指示区域外からの避難者の困苦やその被害については、これまでほとんどすべての民事訴訟において被害額の多寡はともかくとして認められてきた。

また、衆参両院で全会一致の賛成によって成立した「原発事故・子ども・被災者支援法」でも、避難指示区域とは別に支援対象地域(放射線量が年間20ミリシーベルト未満だが、一定の基準以上の地域)が決められるとともに、国に対して被災者生活総合支援施策を実施する責務があると定められている。避難者に対しても住宅の確保や学習・就業の支援などが盛り込まれている。

同法の立法趣旨として、原発事故によって放射性物質が広く拡散したことや、年間20ミリシーベルト容認という低線量長期被ばくが人の健康に及ぼす影響について科学的に十分解明されていないことが指摘されている。

健康被害の問題については、被災者に対していわれなき差別が生じないよう適切な配慮が定められているが、東京高裁に提出された国の書面の内容は、子ども・被災者支援法の趣旨に反していると言わざるをえない。群馬のみならず全国の原告、弁護団が、東京高裁で出された国の書面の内容に抗議の意思を示したのも当然だと言える。

国や東電が恐れていること

なお、高裁判決で国や東電の責任や損害賠償が認められた場合、これまでに国が定めた賠償の目安である「中間指針」の見直し論が国政の場で持ち上がる可能性も高い。指針の見直しが実現した場合、さまざまな事情によって裁判を起こすことのできない大半の被災者への賠償額の上積みにもつながる。国や東電が恐れているのはそのことにほかならない。柏崎刈羽原発の再稼働にも影響が及びかねない。

「ふるさとにとどまった人たちから避難生活を心配されることはあっても、後ろ指を指されたことはない。高裁で国の言い分を聞いた時には、加害者が被害者・主権者に何の根拠も無くここまで言うのかと悔しくて眠れなかった」

1月21日に出される判決での勝訴を、丹治さんは祈るような気持ちで待っている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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