今の株式市場は「少しカオしてる」かもしれない 「天井形成時の乱高下」を表す言葉を作ってみた

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結局アメリカ市場の前週末には、前述のような株安とともに長期金利の低下が生じた。その要因としては、当日発表された12月の小売売上高が挙げられる。前月比で0.7%減少し、クリスマス商戦の不振が市場を動かしたとされており、それはうなずける。

しかしパウエル議長の講演内容について、今度は「低金利が長期化するとの見方から長期金利が低下した」ともされており、議長講演はいったい債券の買い材料なのか売り材料なのか、わからない。

さらに、バイデン次期大統領の経済政策は、株式市場では景気押し上げ効果が期待されるとして株高の材料とされ、一方で述べたように債券市場では「悪い金利上昇」の要因とされていた。

ところが14日の夕にバイデン氏が1.9兆ドル規模の対策を実際に発表すると、株価と金利が反落した。それは2兆ドル程度の政策は既に織り込んでいたから、と手のひらを返して説明されている。何が株式や債券の市況を動かしているのか、理解に苦しむところだ。

ミニカオスは何を示唆しているのか

以上、細かい点までつらつらと述べてきたが、結局、先週の市場動向を幅広く振り返ると、投資家が強気と弱気の狭間で方向感を失いつつあるようだ。「今度はこの材料」「次は別の材料」と目が移っており、本来、それぞれの材料が市況にとってどういう意味を持つかということより、わけもわからず材料を通過するたびに売ったり買ったりしているだけのように見える。

あるいは、大多数の投資家が様子見で売買が薄くなったところへ、TSMCの決算に絡んだ投機売りのような商いが持ち込まれると、それだけで市況が振れてしまうような状態なのだろう。

「天底荒れる」と書いたが、典型的な株価天井形成時と同様に、昨年11月以降生じた株価の上昇が、短期的な転機を迎えているのではないだろうか。

とは言っても、今後一直線に株価下落が進むというより、「荒れる」という言葉にふさわしいような、日々上下動を繰り返しながら落ちていく市況なのだろう。

この局面で「欲張って短期変動で儲けよう」というのは実に危険だと懸念する。ただし、たびたび当コラムで書いているように、投資は自己責任を取る限り、何をするのも自由だ。ミニカオス相場で大いに自分の利益を醸そう、というのも自由である。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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