三菱重と日立、一体どこで明暗が分かれたのか 幻の「統合」破談から10年、時価総額に今や大差

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一方、三菱重工は苦戦している。陸海空での高い技術力を生かそうとしてきたが、失敗の連続だ。2011年に初受注した大型豪華客船「アイーダ」では、建造が遅れたことで1800億円を超える多額損失を計上して同事業から撤退した。社運をかけた国産初のジェット旅客機「スペースジェット」には累計1兆円を投じるなど一本足打法で投資を集中させたが、6度の納入遅延を経て、初号機を飛ばすことなく、昨年秋に開発凍結に追い込まれた。

選択と集中を進めた日立と違い、三菱重工では大きな事業ポートフォリオの組み替えも見られない。その結果、この10年間は一貫して火力発電事業が稼ぎ頭だ。2011年の日立との破談後、日立と唯一合意した大型案件がまさに火力発電事業の統合だ。合弁の出資比率は三菱重工が過半を握った。だが、日立とは海外での損失負担をめぐる係争に発展。19年にようやく和解し、日立から合弁の保有全株を譲り受けた。こうして三菱重工は発電用大型ガスタービンで念願の単独世界トップに立った。

だが、待っていたのは脱炭素の荒波だ。日立はその間、火力発電から撤退する一方、スイスの重電大手ABBから送配電事業を過去最大の1兆円規模で買収。発電から再エネ拡大で重要度が増す同事業に軸足を移した。三菱重工関係者は「日立の先を見通す力にはいつも出し抜かれる」と舌を巻く。

技術力を過信する自前主義から抜け出せず

三菱重工が変化を打ち出せずにきたのは、技術力を過信する自前主義が大きい。伝統的にOBが強い影響力を持ち、先人のものづくりを否定することへの抵抗感が強く、変化に遅れてきた。そんな中、昨年10月に前倒しで発表した新中期経営計画では航空機、石炭火力、商船の3部門を対象に国内で約3000人を減らす方針を示した。一方で、新たな成長柱を脱炭素とデジタルに位置づけた。両分野に今後3年で約1800億円を投じて、23年度に売上高1000億円を目指す。

ただ、日立は脱炭素とデジタルで先を走る。さらに独シーメンスはもっと先を行く。日本と同じく製造業中心のドイツを代表する重電大手だが、デジタル企業を次々と買収し、今は産業分野に強いIoT大手に変身した。医療機器と発電用タービンも昨年までに切り離し、本体は工場のデジタル化に特化することで、利益率10%を大きく超過する。時価総額でも日本の製造業を引き離している。シーメンス幹部は「従業員の意識もハードからソフトに変わってきた。ソフトの企業価値はハードよりも大きい」と話す。

三菱重工と日立。この10年のそれぞれの歩みは、そのまま日本の製造業の勝ち組と負け組を分けた明暗の縮図にも見える。

『週刊東洋経済』1月23日号(1月18日発売)の特集は「「製造立国の岐路 三菱重工と日立「統合」破談から10年」です。
冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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