「中小企業の生産性向上」が日本を救う根本理由 日本の中小企業は「躍進の可能性」に溢れている

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日本の大企業の生産性は今でもEU28カ国と同じレベルです。しかし日本の場合、大企業が少なく、全企業に占める割合が国際水準に照らし絶対的に低いので、大企業だけがどんなに頑張っても、日本全体の生産性を押し上げる効果は期待できないのです。

逆に、日本では中小企業が占める割合が大きい上に、生産性が国際水準に照らしても絶対的に低いので、仮に中小企業の生産性が向上すれば、国全体の生産性の引き上げに大きな影響を及ぼすのです。

驚くことに、日本の中小企業の大企業に対する生産性比率を、EU28カ国と同様の66.4%まで引き上げれば、日本の生産性とGDPは今の1.44倍に増えることになります。

生産性向上の「ハウツー」には適正な規模が必要

私は中小企業の規模の違いに注目し、日本の生産性について分析を進めてきました。中小企業の規模の違いに注目している点は、私の分析の特徴だといえると思います。

多くの人は、生産性を向上させるために、最先端技術の導入や、女性活躍の促進などの「ハウツー」を提言します。

ただ、これらの方策が提言されるのは今に始まった話ではなく、かなり前から叫ばれていました。しかしながら、現実問題としてこれらの方策が功を奏した様子はまったく見られず、生産性は向上していないどころか、世界の中での順位がどんどん低下してしまっています。

私は長年の研究の結果、生産性が向上しない原因は「どうすれば生産性を高められるか、そのハウツーがわからない」ことではないことに気づきました。「ハウツーはわかっていても、実践していない」ことこそ、日本が抱える課題なのです。

そうであれば、そこには何らかの根本的な問題があるはずです。だから私は、ハウツーの実施に国が補助金を出す程度では生産性の向上は実現できないと考えるようになりました。

では、その問題は、インセンティブなのでしょうか、規制なのでしょうか、政策なのでしょうか。

そこで、最先端技術を使うのにも、女性活躍を進めるのにも、企業にはそれらを実現するのにふさわしい適正な規模があるのではないかと仮説を立て、分析を始めました。その結果、日本の多くの中小企業は、生産性向上を実現するのに求められる適正な規模よりも、はるかに小さいという結論にいたりました。

たしかに、仮に規模が適正であっても、生産性の向上が保証されるものではありません。しかし適正な規模は、生産性向上に欠かせない必要条件です。事実、生産性向上に成功している国では、企業の平均規模が拡大していますし、中小企業が牽引役として最も貢献しています。

計算上は、日本の生産性が低い主因は中小企業にあります。残念ながら、反論する余地はありません。中小企業の生産性が上がらなければ日本の生産性も上がらないのは、厳然たる事実です。

逆に、中小企業が頑張れば頑張るほど、経営者も労働者も、日本経済も大きく回復します。給料も上がります。これからは、中小企業の生産性向上をどう実現するか、真剣な議論が求められるのです。

次回は、中小企業の生産性が低い原因を「大企業による搾取が原因だ」とする大企業搾取論を検証します。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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