コロナ禍予算、歳出増回避した「2つのからくり」 当初予算案は過去最大でも実質増はわずかに

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このように歳出増要求を認める一方で、予算案全体としてはコロナ後を見据えた財政健全化のくさびを打ち込んだ。一般会計の歳出総額は過去最大となったが、2020年度当初予算の102.7兆円と比べ、約4兆円の増加にとどまった。

ただ、2020年度当初予算には消費増税対策が1.8兆円計上されており、それを除くと100.9兆円となる。他方、2021年度当初予算案には、コロナ対策予備費が5兆円計上され、それを除くと101.6兆円となる。

つまり、臨時的な歳出を除くと、2021年度当初予算案は前年度比で7300億円しか増えていないとみることができる。内訳をみると、国債の元利償還費である国債費が約4100億円、地方交付税交付金が約1400億円、社会保障関係費が約1500億円それぞれ増加し、社会保障以外の政策的経費の増加は330億円にとどまった。前述のような歳出増要求を認めたうえでのことだ。

社会保障費は1500億円増にとどまる

そのからくりは主に2つある。1つは、社会保障関係費が約1500億円の増加にとどまったこと。2020年4月の緊急事態宣言後、コロナ以外の患者の受診控えなどが起こり、2020年度の医療費は予定より少なくなると予想されている。その結果、国の一般会計に計上されている医療費は2000億円ほど少なくなりそうだ。

他方、2021年度当初予算案の社会保障関係費は、前述の医療・介護関係の予算も含めて約3500億円増やす。両者を差し引きした結果、2021年度当初予算案の社会保障関係費は2020年度当初予算より約1500億円増やす形で収まった。別の言い方をすると、コロナ影響で医療費が減っていなければ、2021年度当初予算案の社会保障関係費は2000億円ほど多く必要だったかもしれない。

もう1つは第3次補正予算案である。同案には防災・減災・国土強靱化の推進を名目とした公共事業費3.1兆円、中堅・中小企業の経営転換を支援するための事業再構築補助金1.1兆円、カーボンニュートラルに向けた革新的な技術開発支援のための基金2兆円を盛り込んでいる。

もし第3次補正予算を組まなければ、そうした歳出増要求を2021年度当初予算案でのみ込まなければならなかったが、第3次補正予算案に計上したことで当初予算案に盛り込まずに済んだ。その分、当初予算案の政策的経費を抑えられたのである。

当初予算はできるだけ恒久的な歳出に限り、臨時的な歳出は補正予算に盛り込んで、事態が収束すれば丸ごと削ればよい。そうした算段が見え隠れする。したがって、当初予算で歳出増を抑えることは重要である。事態が好転した後に財政健全化の道筋も見えやすくなる。

とはいえ、当初予算案がきれいになっているだけで、第3次補正予算案で国債を22.4兆円も追加増発して財政出動しているという事実は揺るがない。当初予算と補正予算の使い分けの度がすぎれば、補正予算の編成は恒例の年中行事と化し、補正予算のバラマキが続いて、いつまで経っても決算ベースでの財政収支は改善しない。

今後は、当初予算の規律だけでなく、補正予算でも無駄遣いが起きないようにしっかり管理しなければならない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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