「緊急事態宣言」が示す日本の法律の致命的欠点 想定外の緊急事態は「人の支配」に頼る危うさ
日本は、英米法系の憲法と大陸法系の法律が併存していることも事態を複雑にしている。
近代世界における法体系には、ドイツやフランスを中心としたヨーロッパ大陸で発展してきた大陸法系と、イギリスとその植民地で発展してきた英米法系が存在する。この2つの法体系の差異にはさまざまなものがあるが、その一つに国家緊急権に対する考え方の違いがある。
大陸法系では緊急時において行政府に一時的に権力を集中させるが、その場合の条件や権限内容を具体的かつ詳細に憲法に規定することが多い。あくまで制定された成文法を第一義的な法源とする考え方に基づくものだ。
英米法系では明文規定がなくても対処が許容される
これに対して、英米法系においては、緊急時における不文の法理として、伝統的にマーシャル・ロー(戒厳令)が認められてきた。平時には認められないようなことも、緊急時においては、明文規定がなくても非常手段によって対処することが許容されると考えられているのだ。これを「必要性の法理」という。
大陸法系であった大日本帝国憲法には、緊急勅令(8条)や戒厳の宣告(14条)、非常大権(31条)など緊急事態条項が規定されていた。敗戦後、新憲法の草案策定にあたった松本烝治国務大臣たちは、緊急事態条項を規定したかたちで当初案を作っていた。
しかし、草案を受け取った連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が、英米法系の考え方に基づいて「緊急時には、内閣のエマージェンシー・パワーによって処理すればよいから不要である」として削除してしまった。参議院の緊急集会(54条)を例外として、日本国憲法から緊急事態条項は消えたのだ。
なお、駒沢大学の西修名誉教授によれば、1990年以降2016年までの間に制定された世界で103か国の憲法では、そのすべてにおいて緊急事態条項が規定されているという。憲法に緊急事態条項を入れるのは国際社会では常識といっていいものといえるだろう。
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