日立、"名より実を取る"鉄道車両の成長戦略 新幹線の「顔」争奪戦では川崎重工が先行

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ベトナム・ホーチミン市では、都市鉄道プロジェクトを受託した。17編成、車両数51両は決して大きい数ではないが、信号・通信、電力供給、5年間にわたる保守など、まさにパッケージでのビジネスを獲得している。

韓国・大邱では、2008年から進めてきた都市鉄道プロジェクトが大詰めを迎えている。モノレール車両84両の納入が完了し、現在は営業運転に向けた試運転中だ。こちらも車両だけでなく、分岐器や信号設備も契約範囲に含まれる。

このほかにも、昨年インドやブラジルに拠点を設けており、世界で戦う体制作りが進んでいる。何より、鉄道事業のトップにドーマー氏という外国人を据え、本部を日本から英国へ移したことがその証左だろう。

国内は技術開発のハブに

では、国内事業の先行きはどうなのか。在来線では不採算路線の廃止が始まり、車両製造数は頭打ちの状態が続く。このような市場環境を背景に、これまでは少しずつでも売り上げを伸ばしてきたものの、2013年度の1093億円をピークに2015年度には840億円へと減少する計画だ。

ただ、悲観論は禁物だ。「国内は技術開発のハブとなる」とドーマーCEOは言う。国内事業が業績面で大きく貢献できなくなっても、世界に貢献できる技術を生み出すことは可能だ。

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鉄道ファンの間で根強い人気を誇る500系

古くなった車両は必ず置き換えられる。新幹線の過去の歴史を見ると、10~20年のサイクルで新型車両が登場している。

既存の路線だけでなく、現在建設中の北陸新幹線・金沢―福井間、北海道新幹線・新函館北斗―札幌間、長崎新幹線・武雄温泉―長崎間が開業するころには、より高性能の新型新幹線が導入されるはずだ。そして、その開発ノウハウは、確実に海外展開に活用される。

願わくば、そのときには日立には新幹線のシンボルである先頭形状のデザインを担当してもらいたい。何しろ、日立はファンの間で絶大な人気を誇る500系新幹線の原型モデルを生んだメーカーなのだから。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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