ユニクロ株がズルズルと下落する理由 「デフレ型モデル」から転換できるか

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6月11日、値上げを発表したファーストリテイリングの株価が下落している。ニューヨークで2月撮影(2014年 ロイター/Carlo Allegri)

[東京 11日 ロイター] - 値上げを発表したファーストリテイリング<9983.T>の株価が下落している。日経平均と連動しやすい同社株だけに判断は難しいが、市場では値上げを好材料とみる声はまだ少ない。

値上げが消費者に受け入れられればいいが、コスト増を転嫁するだけの値上げでは明るい将来像が描けないためだ。円高による安価な輸入と低価格をベースにしてきた「デフレ型ビジネス」を転換することができるのか、日本の行方を占うテストケースでもある。

コスト増の転嫁では評価できず

ファーストリテイリングは10日、同社のカジュアルブランド「ユニクロ」で、今秋冬物から順次、5%程度の値上げを実施することを明らかにした。中国など低コストな国で大量生産を行うことによって、低価格の商品を提供してきたが、足元の円安や原材料高、人件費増などが負担になってきたという。

同社株は日本株市場で特殊な位置付けだけに、値上げの材料がストレートに反映されるとは限らない。日経平均の指数に与える影響度が大きく、それゆえ同社株を集中して売買し、価格を動かすことで、日経平均の動きに影響を与えようとする投資家もいるとみられている。

予想株価収益率(PER)は41倍。ファーストリテの材料だけで形成された株価とみている市場関係者は少ない。

10日に商品の値上げが明らかになったユニクロ株は1.56%下落したが、日経平均も0.85%下落しており、値上げが売り材料視されたかの判断は困難だった。

しかし、11日は日経平均が0.50%と反発したのに対し、ユニクロ株は0.35%下落と逆行安。2日間の値動きで判断するのは難しいが、値上げは少なくとも現時点で好材料とはみられていない可能性が大きい。

国内ユニクロの既存店売上高は、4月が3.3%増、5月が4.1%増と消費増税後も堅調だ。値上げは消費者に受け入れられる自信があるからこその強気と受け取ることもできる。

ただ、市場では「消費増税の影響はこれから。付加価値を高めず、コスト増を転嫁するだけの値上げでは評価できない」(内藤証券・投資調査部長の田部井美彦氏)との声が出ており、足元の株価反応は芳しくない。

同社は今年4月、2014年8月期の連結当期純利益見通しを前年比2.6%減の880億円に下方修正。1.8%増の増益予想から一転して減益見通しとなった。下方修正の主因は国内ユニクロの伸び鈍化予想。市場では、今回の値上げで業績が回復するとの見通しにはまだ至っていないようだ。

「負のスパイラル」を止めることができるか

ユニクロ株の帰すうが注目されるのは、日本株もしくは日本経済の行方を示しかねないためだ。安価な輸入による低価格で勝負してきたいわば「デフレ型ビジネス」から、売り上げを落とすことなく値上げを浸透させることができる「インフレ型ビジネス」に転換できるか、という大きなテーマが背景にある。

デフレ下の日本では、売れないから値下げし、賃金も下がり、さらに売れなくなるという「負のスパイラル」が続いてきた。過度な低価格競争が企業収益を圧迫し、賃金を下げ、消費も伸びなかった。

値上げしても販売が落ちなないことに自信が持てれば、経営者も賃金を上げやすくなり、消費も拡大する好循環につながる。

ファーストリテでは、人材確保のために販売員1万6000人の正社員化を進める方針だ。今回の値上げと正社員化の関係は不明だが、値上げが賃金上昇につながれば、日本にデフレ圧力をもたらしていた悪循環を逆回転させる動きが広がる可能性が高まる。

りそな銀行・総合資金部チーフストラテジストの高梨彰氏は「円高による安い輸入と安い海外労働力をベースにしたデフレビジネスは、円安の定着で岐路に立っている。値上げをうまく浸透させることができれば一時的ではないデフレ脱却に大きく近づく」と指摘。そのうえで、それには政府が期待できる成長戦略を示し、将来の明るい希望を消費者に抱かせることが欠かせないと述べる。

ユニクロ株も足元の評価は厳しいが、値上げ後も販売増加が続いたことがデータで示されれば、株価の反応も180度変わる可能性もある。

MSCIのカントリー・カテゴリー変更で韓国、台湾の先進国市場への移行が見送られた。市場では「アジアでは、やっぱり日本株との評価が広がりそうだ。海外投資家をもう一度振り向かせるような材料が出れば、日本株には割安感もあり、もう一段の上昇が期待できる」(大手証券トレーダー)との声も出ている。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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