ネズミの笑い声は「高音すぎて」人に聞こえない ネズミだって「嫉妬心」を感じる生き物だ

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ストレスを感じているマウスは嫌な記憶をより長く保持するのであるが、記憶力試験でも同様の結果が確かめられた。

マウスは板の上で電気ショックを受けて、しばらくたった後に同じような板の上に載せられると、電気ショックが起きなくても嫌な記憶によって身を縮こませ、フリーズしてしまうのだ。

そのフリーズしている時間が長ければ長いほど、かかったストレスが大きいとされる。

1匹のマウスがストレスをかけられているとき、あとの4匹のマウスが拘束されず自由に動き回っている(のを見る)と、1匹でストレスをかけられているときと比べて、ストレスホルモンの分泌が多くなるというのだ。

もちろん、1匹でストレスをかけられているときも、5匹でかけられているときも、自由に動き回っているほかのマウスを見ながら1匹だけでストレスをかけられているときも、かかっているストレスは変わっていないはずなのに、マウス自身が感じているストレスの強さは変化しているのだ。

ネズミも、他者が同じ嫌なことを耐えている姿に慰められ、反対に自分だけが嫌な思いをしているという不公平感で、よりストレスが増大してしまうと解釈することができる。

ネズミを知ることは私たちを知ることに

ネズミの一生をすべてうかがい知ることはできないが、ほかのネズミに対して不公平感を覚える機会はおそらく人間より少ないだろう。

それでもネズミの小さな体には、「嫉妬」という感情が搭載されている。必要のない機能の多くはいずれ退化していくが、この「嫉妬」という感情はさらに複雑な脳を持つ私たち人間で明らかに発達している。

「嫉妬心」

今は悪者扱いされがちなこの感情は、ときに起爆剤として私たちを奮起させ、世界を発展させるのに役に立ってきたのかもしれない。

『ネズミのおしえ ネズミを学ぶと人間がわかる! 』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

悪いイメージを持つ感情だからといって決して必要のない感情ではなく、生き残るために有利だから残っている感情だと言える。もちろん、あればあるだけいいものではないが、それは生存に必要なものすべてに対して言えるだろう。

私たちが生きるうえで、当たり前に取り入れている水や塩だって、なければ死んでしまうし、すぎれば毒になる。

私たちに必要なのは、嫉妬心を押し込めてなきものにすることではなく、用法用量を守ってうまく付き合って行くことである。ネズミを知ることは私たちを知ることにもつながっている。

篠原 かをり 作家

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しのはら かをり / Kaori Shinohara

作家。1995年横浜生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院在学中。幼少の頃より生き物をこよなく愛し、自宅でネズミ、タランチュラ、モモンガ、イモリ、ドジョウなど様々な生き物の飼育経験がある。
これまでに『恋する昆虫図鑑~ムシとヒトの恋愛戦略~』(文藝春秋)、『LIFE―人間が知らない生き方』(文響社)、『サバイブ<SURVIVE>-強くなければ、生き残れない』(ダイヤモンド社)、『フムフム、がってん!いきものビックリ仰天クイズ』(文藝春秋)、『ネズミのおしえ』(徳間書店)などを出版。また「世界ふしぎ発見!」「有吉ジャポン」など、テレビやラジオで活躍。雑誌連載や講演会も積極的に取り組んでいる。

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