新型コロナウイルスの感染拡大で厳しい状況が続く航空業界にあって、日本航空(JAL)には「雇用の死守」という重い命題が課せられている。10年前の破綻からの再建を成し遂げたカリスマ経営者の理念を受け継いだ経営陣は、終わりが見えないコロナ禍で選択肢が限られた難しいかじ取りを迫られている。
「雇用は絶対に守ってほしい」。JALの大田嘉仁元専務執行役員は今年春、赤坂祐二社長にメールを送った。新型コロナで移動が制限され、航空業界への深刻な影響が見込まれたためだ。大田氏は2010年に会社更生法を申請したJALの会長に政府の要請で就任した京セラ創業者、稲盛和夫氏の右腕としてともに再建を主導した。
仏教徒でもある稲盛氏はJALの企業理念を「全社員の物心両面の幸福の追求」と定めて社員の信頼を勝ち取り、急激に収益力を回復させて破綻から2年半余りで再上場にこぎつけた。コロナ禍で巨額の赤字を見込む中、希望退職を公表したANAホールディングス(HD)と違ってリストラには手をつけていない。
大田氏は都内でのインタビュ-で、JALでは業績回復後も雇用維持を重視して給料を上げてこなかったとし、「すぐにそれで希望退職とかをすると従業員を裏切ることになる」と経営陣の対応を評価。赤坂社長からの返信も雇用維持の重要性について概ね同意する内容だったと明らかにした。
世界規模の新型コロナ感染拡大で、各国が厳しい渡航制限を続ける中、航空会社の収入は激減。海外では英ヴァージンアトランティック航空など経営破綻に追い込まれる会社も出ている。
欧州最大手のルフトハンザ航空はドイツ政府の救済措置で90億ユーロ(約1兆1370億円)の資本注入を受け、エールフランスKLMもフランス、オランダ両政府から金融支援を得た。韓国では大韓航空がアシアナ航空を買収する方向だ。シンガポール航空やタイ国際航空も早期退職を募集するなど多くのエアラインが生き残りに懸命だ。