JALが背負う「雇用死守」という軽くない十字架 世界の航空会社が苦難の中、「賭け」となるかも

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稲盛和夫氏(都内、2010年7月28日)Photographer: Toshiyuki Aizawa/Bloomberg *** Local Caption *** Kazuo Inamori

一方、JALやANAHDなど国内航空会社は金融機関の融資や空港使用の引き下げなどで支援を受ける一方、公募増資や劣後ローンによる財務強化を図っている。JALでは人員のグループ外への出向や、新規事業による売上高創出などを通じ、グループで約3万5000人の従業員の雇用に手をつけず未曽有の危機を乗り切ろうとしている。

みんなで一緒に

経営破綻した経緯からJALは他社に比べて債務が少ない優位性があるほか、部門ごとの採算性を重視する稲盛氏の指導の下で営業利益率10%を超える航空業界でもまれな高収益企業に変貌を遂げた。

大田氏は、昔のJALは無責任体質がまん延し、社員同士の足の引っ張り合いで匿名の内部告発文が飛び交うような「腐っている」状態だったという。

再建の成功は「人としての正しさ」や「利他の心」を説いて団結を求めた稲盛氏の思想に社員が共鳴したためだとし、少し苦しくなったからといって「労働者はコストだからいらん、みたいなことを言い始めたら一体感がなくなる。調子が良くなった時にあの時は仕方なかったからごめんね、と言っても誰もついてこない」と指摘する。

京セラでは長く稲盛氏の秘書を務めた大田嘉仁氏Source: Yoshihito Ohta

大田氏によると、稲盛氏は経営理念に背いて人を切って生き残るぐらいならばむしろ倒産を選ぶとの考えを持っているという。巨額の負債を抱えて行き詰っていた破綻前と比べると今はまだましだとし、雇用を守って「それでもしつぶれるんだったら、もうみんなで一緒につぶれて行こう」というぐらいの厳しさで経営に当たるべきとした。

JAL広報担当者は雇用維持の理由について「需要回復時の反転攻勢に備えて安全やサービスの質を高めるための教育や訓練を実施する。また、これまで携わることのなかった業務に就く機会を設け、社外のノウハウ取得やマルチタスク化など、今後に活かせるように時間を有効活用する、というのが基本的な方針であるため」とコメント。需要減が長期化した場合でもリストラは「現時点では考えていない」とした。

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