コロナ禍の日本で無気力が蔓延したのはなぜか

忘れてしまった政府に「抵抗する」権利

2020年3月、ヨーロッパでコロナ禍が広がる中で各国政府がロックダウンを行うことは、新型コロナウイルス感染症を封殺するのみならず、人々の抵抗権をも封殺することになるはずだった。4月、通りから人々がいなくなり、抵抗が消えたとき、コロナ以上に不気味なものが世界を覆ってしまった。人々の自由な抵抗権の喪失である。

個人の自由といえども、それは社会によって規制されねばならないといわれる。なるほど一面そうであるが、しかしこれまで、どれだけの政権がそれを言い訳として、個人の権利を封殺してきたのであろうか。

まるで国家非常事態における戒厳令のような世界が2020年、突如として出現したのだ。2019年秋には、チリやボリビアなど各地で学生や市民の反政府運動が起こっていた。しかし、これらの運動もコロナ禍とともに消えていった。戒厳令(martial law)は、すなわち戦争下の強制的制限法である。今では「何時以降、レストランは営業してはならない」とか、「外出をしてはいけない」といった、まるで戒厳令下のような法令が、政府の手によって安易に出され続けている国がある。これは由々しき事態である。 

それはまた、経済的な理由から一時解除されたヴァカンスシーズンの終了後、再度行われつつある。しかし、それがたんに新型コロナ感染者・患者数が増大しているために民衆を守るための安全対策だと考えるのは、あまりにも能天気だ。だからこそ、チリでもフランスでも再びデモが始まり、その不満は政府の政策とコロナ禍での強権体制に向けられているからである。

権力者の独裁を拒否する権利はある

歴史的に見て、個人の自由は中央政府から与えられたものなどではない。そこから人々がつかみ取ってきたものである。だから安易に従属することは、権利の放棄を意味する。フランスの16世紀の思想家、エティエンヌ・ド・ラ・ポエシは『自発的隷従論』の中で、「国民が隷従に合意しないかぎり、その者(圧制者)は自ら崩壊するのだ」(西谷修監修、山上浩嗣訳、ちくま学芸文庫、2013年)と述べている。

要するに、権力者の独裁と戦うには隷従を拒否し、自由になることを日々心掛けねばならないのだ。ベラルーシで行われているルカシェンコ大統領の独裁に対する抵抗運動は、コロナ禍でも西側の国々がこぞって支持している。だとすれば、その支持はそのまま西側の政治家に対する抵抗運動に対しても当てはめられるべきだ。「フランスやドイツでの抵抗運動はファシストの集団であり、ベラルーシとは違う」などと軽々しく言うべきではない。

では、日本ではどうか。けなげにも、人々は権力に隷従するかのようにおとなしい。それこそ、日本人の美徳だという意見もある。しかし、私はそれを無気力と呼びたい。安倍晋三政権下で起こったさまざまな疑惑が何も究明されないまま、新型コロナウイルスとともに封印されてしまうとすれば、このおとなしさは結局、抵抗権を失った隷従といえないのか。

移動の自由や集会の自由は、新型コロナウイルスに対する一定の予防措置が十分可能であるとすれば、当然の権利として認められねばならないはずだ。だとすれば、一時停止されたが、政府から「Go To トラベルキャンペーン」で自由に動いてほしいというものだ。しかし、政府からそう言われる前に、政府に抗して、自由に移動し、何事に関しても自由に語るべきである。今こそ、われわれは、自らの抵抗の権利をかみしめるべきだろう。

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