甘いことばかりではない「70歳まで働ける企業」
また、大企業では再雇用者に対して仕事や給与を一律に処遇するケースが多い。給与が同じということは働きへの期待が小さいというメッセージとなり、能力や生産性の高いシニア社員のやる気を減退させるだけでなく、会社全体のモチベーションやモラールを低下させる要因にもなりかねない。結局は年金支給までの“腰掛け”となり、その雇用コストが企業の負担としてのしかかる。
シニア社員のやる気と生産性を高めるためには、「評価が不可欠」と、みずほ総合研究所主任研究員の堀江奈保子さんは指摘する。しかし、現状、この評価を機能させている企業は少ない。元上司を評価することに抵抗感があり、どうしても一律な評価にとどまってしまいがちだ。あるエンジニアリング会社では、シニア社員の業務管理は外部の派遣会社に委ね、その評価も派遣会社を通して行っているという。
「高齢化社会を迎え、高齢者のニーズをとらえた商品開発や高齢者向けの接客など、シニア社員の活用は必要になってくる。でも、必要とされるシニアは技術や能力が高い者に限られる。求人とともに給与でも大きな格差が出るだろう」(堀江さん)。
60~64歳男性の完全失業率は6・6%(1月)と15~24歳に次いで高い。長引く不況で企業による“腰掛け”的継続雇用もコスト的に限界に来ている。
「70歳まで働ける企業」は決して人に優しい企業ではなく、優勝劣敗の世界である。しかも、社会がそれを目指すためには、これまで優遇させてきた正社員の既得権を崩すことも求められよう。65歳定年、そして70歳まで働ける企業に移行するには、年功的な賃金体系を見直すことが不可欠だ。
「同じ仕事であれば同じ賃金」という原則に立ち返れば、正社員とシニア、そして非正規社員との賃金格差も不合理なものとなる。シニア社員雇用の制度設計の影響は、われわれ現役の給与体系見直しにも及ぶ可能性がある。
(シニアライター:野津滋 =週刊東洋経済2010年3月27日号)
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