鳴り物入り「デジタル庁」の議論が残念な理由 期待される役割は「ハンコ撲滅」じゃない

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これと同じことをすべきだとは言わないが、このままでは海外企業にすべての標準を握られてしまい、日本メーカーは敗北し、日本のオペレーターも海外のメーカー製品の採用を余儀なくされてしまう。

政策立案へのデジタルの応用

さらに進んで、民間からの経済活動についてのデータフィードバックの実装と、それに基づいて政策をより効率的・効果的に打つことが可能であると筆者は考えている。

現状では、経済の状態を把握するためには統計処理や会計処理を経る必要があり、そこに実体経済からの遅れが生じ、しかも個々のデータを合計するなどして加工してしまうため、加工された軸でマクロ的にしか物事を見ることができなくなっている。IoTやSNSを使い実体経済から直接情報を集めることができれば、特定の政策が効いているのかいないのか、どの程度、どこに効いているのかを瞬時に観察することができる。

中国首相である李克強が遼寧省知事であった時代、官僚によって加工されたGDP数値は信用できないとし、鉄道貨物輸送量、銀行融資残高、電力消費を見て政治を行っていると述べていることがウィキリークスにリークされている。これをIoTなどを使って迅速かつ精密に、かつ大規模に行えばいいのだ。

電力のスマートメーターを使って電力消費量を観察したり、自動車の稼働、工場稼働などを観察すれば、産業セクターや地域ごとの実体経済を正確に把握できる。

お金のほとんどはデジタルで決済されているし、現金の使用に関してもPOSでかなりの部分を把握できるため、モノの移動や稼働とともに金融活動もリアルタイムで把握できる。あたかも気象庁がドップラーレーダーや衛星を運用し、スーパーコンピューターを使って天気予報をしているように、膨大なデータから経済活動を把握し、それをもとに未来の経済を予測できる。

日銀の金利政策や通貨供給、政府の補助金や減税などの政策に対して、社会のさまざまな要素がどのように挙動するかについてのデータを集め、AIを使ってモデルを生成できれば、シミュレーションを行ったうえで政策を決定し、実行できるはずだ。

冒頭に述べたように、デジタル庁は、行政サービスのデジタル化といった効率化のような小さい話に終始すべきではないのだ。デジタル化とデジタル庁の創設が日本企業の競争力を取り戻す起爆剤になることを、各産業が期待している。

今枝 昌宏 エミネンス合同会社代表パートナー、ビジネス・ブレークスルー大学大学院教授経営学研究科長

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いまえだ まさひろ / Masahiro Imaeda

愛知県生まれ。PwCコンサルティング、IBM、RHJI(リップルウッド・ホールディングス)などを経て現職。現在は、コンサルティングと研修事業を営む企業を経営するとともに、ビジネス・ブレークスルー大学大学院で「現代版企業参謀」「デジタル時代の経営原理」の講座を担当。ビジネスモデル論、サービス経営、デジタルビジネスなどを専門とする。
著書として『デジタル戦略の教科書』(中央経済社)『ビジネスモデルの教科書』『ビジネスモデルの教科書【上級編】』『サービスの経営学』『実践・シナリオプランニング』(いずれも東洋経済新報社)『実務で使える戦略の教科書』(日本経済新聞出版)などがある。
 

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