鳴り物入り「デジタル庁」の議論が残念な理由 期待される役割は「ハンコ撲滅」じゃない
産業全体でそれらを統一すれば、企業間で相互受委託の可能性が生まれ、各企業が持つべき“予備能力”を削減することができる。
例えば複数の電力会社間で設備保全のプロセスやシステムを統一すれば、災害時などに相互の応援もスムーズにできるようになる。海外の電力会社もこれに参加すれば、災害時の復旧支援を相互に強化し、参加企業にもメリットをもたらせる。
企業が持つデータを交換し、そこから得られるメリットの果実を共有できるような仕組みも必要だ。
顧客データについてはプライバシーの問題もあり、研究開発データについては企業の競争力の根幹に関わるものだが、データと利用ニーズが別々に存在していることを社会全体として解決していかなければならないと考える。例えば、複数の素材を混合した物質の物性データが、その所有企業には価値がないものだとしても、ほかの企業にとっては極めて価値が高いものだということもある。
政府は、Society5.0という社会ビジョンを提唱している。要するに経済主体を超えた社会全体をデジタルで結び、全体最適を実現するということだが、それは社会全体のビジョンであるだけに、参加する行政や企業などの主体が多数に上る。そのため、ビジョンに到達するためには、企業を超えたプロジェクトマネジメントがどうしても必要であり、それは1企業では行えないことだ。
各業界、各機能領域で具体的なビジョンを策定し、そこまでの道筋を描き、実現を促進する企業を超えたリーダーシップやプロジェクトマネジメントがどこかに必要であり、このままでは絵に描いた餅に終わってしまう。
業界を超えた連携を国が支援できるか
ここまで、プラットフォームや標準化について述べてきた。次に、政府に期待したいことは、日本発のデジタル技術の創出と、世界における技術的なリーダーシップを取ること、それについて官庁を超えた政策の立案と実行をしてほしいということだ。
例えば、通信、鉄道、電力、ガスなどのインフラビジネスでは、オペレーター(鉄道会社、通信会社や電力会社)とメーカー(車両メーカー、通信機器メーカーや発電設備メーカー)とがセットになって生み出せる競争優位がある。これらの間に協力関係を成立させて、海外に日本のインフラを売り込むといったことだ。
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