過去の賢人に学ぶ「成長追わない社会」の作り方 沈みゆく資本主義の船にしがみついていいのか
中島:意外に思われるかもしれないですが、保守の立場である私も、マルクスの研究者である斎藤さんの考えに、非常に共感を抱いているのです。
斎藤:うれしいです。ソ連を思い浮かべるような、いわゆるマルクス主義と、私が研究している晩期マルクスが到達していた思想とは、かなり違うものだからでしょう。

これまで150年ほど眠っていた新資料をひもとくと、晩年のマルクスは自然科学や共同体の研究にのめりこんでいました。その研究の目的は、資本主義が破壊する地球環境の問題をいかに解決し、平等な社会を実現するか、だったのです。
地球が破壊され、人類の存亡がかかった危機が起きても、資本主義は動きを止めることはない。それどころか、危機さえもビジネスチャンスに変えて、ますます格差を拡大していく。それをどうすればいいのか、という問題をマルクスは真剣に考えていたのです。
中島:私は、もう1隻の船が出ていないという話をよくするんですけれども、日本ではGOTOキャンぺーンやアベノミクスなど、うわべだけのごまかしでしかない経済政策にみんながしがみついてきたでしょう。
しかし、この船が沈んでいっているということは、もう理解しているのに、帆柱にしがみついている。別の船に乗り移りたくても、もう1隻の船が出ていないから、虚構の政策にしがみついているしかない。
生き残るためのビジョンが必要
中島:だから、当然、もう1隻の船を出さないといけないんですよね。経済成長を唯一の目的にする社会モデルとは抜本的に異なるビジョンを提示しなくちゃいけない。その新しいビジョンによって、私たちは生き残れるはずだという実感のあるモデルが必要です。
だから今こそ、政治的立場の左右を超えて、本当に必要な生活ビジョンというのを打ち出していかないといけない。それを考えるときに必要な、極めて理知的で、理論的な土台を斎藤さんが『人新世の「資本論」』でつくってくださった。
斎藤:ありがとうございます。
中島:一言で言うと、この本での斎藤さんの仕事は、ソ連や「マルクス主義」の呪縛から本来のマルクスを解放するということですよね。あるいは、北朝鮮や中国といった、20世紀の失敗した共産主義国家からマルクスを救い出すという作業だと思うんですよね。