アップルが選んだ「ベストアプリ2020」の内幕 iPhoneアプリの1位は「エクササイズ」アプリ

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「体を起こす、仕事を始めるなど、何か行動を起こす準備のためにこのアプリを使います。短い時間のエクササイズによって、体にエネルギーをみなぎらせることを助けます。

古典的なワークアウトは、ジムなどの特別な場所へ行き、特別な服に着替えて、特別な種目をこなさなければなりませんでした。しかし外出できなくなった状況で、生活に取り入れることはすでに難しくなってしまったのです」(ワンダーリッチ氏)

こうして、家の中で体を動かし、心身の健康を維持するアプリと位置づけた。2019年にアプリを配信し成功していたが、2020年はさらに3倍のユーザーを獲得したという。新型コロナウイルスに合わせて、サブスクリプションを家族で共有できるプランへ移行し、さらに支持を広げた。

2人に聞くと、いずれもカネラ氏は開発者、ワンダーリッチ氏はクリエイティブ業界で仕事をしているといい、エクササイズやジムのインストラクターといったバックグラウンドは持っていなかったという。にもかかわらず、世界的大ヒットを博したワークアウトアプリを実現できた理由はなぜだろうか?

「このアプリは、問題に対して、とびきり面白い解決策を提案することで実現しました。同じ目的だったら、少しおかしな、しかし大人も子どももみんなで楽しむことができる方法がいいと思ったのです。

ペドロ(ワンダーリッチ氏)とは幼馴染で、デザインやアプリ開発の分野でこれまでもコラボレーションしてきました。バカげた問題解決に取り組んだ初めての作品は、激しくスマホを振らないと解除できない、絶対起きられるアラームクロックアプリ「Wake N Shake」でした。

Wakeout!アプリは2019年にも好評でしたが、2020年、人々を助ける新しい可能性に恵まれました。活力をみなぎらせるだけでなく12月に入り、寝る前に落ち着くことができるエクササイズも取り入れ、引き続き皆さんのお役に立てるよう取り組んでいきます」(カネラ氏)

顧客体験とテクノロジーから、自ずと答えが出る

「Wakeout!」アプリの強みはユーモアと着眼点だけではない。ユーザー体験を大切にすることを第一にしている点があってこそだ。カネラ氏はユーザーの意見から、初期の動きを収録し、自分たちでひたすら汗をかいてテストし、「マイクロエクササイズ」という新しいアプリ体験を実現した。

しかも、アップルが提供する新しいアプリ開発向けの機能はすぐに取り込んでユーザーに提供するようにしており、すでにApple Watchだけでエクササイズを楽しむことができ、かつその結果はすべて「ヘルスケア」アプリに記録される仕組みだ。

iOS 14で対応したApp Clipsと言われるNFCを用いたミニアプリの仕組みにも取り組んでおり、iPhoneをかざすとその場に適したエクササイズをすぐに楽しめるようになるという。

顧客のニーズと実現したい顧客体験、そして条件として与えられているデバイスやソフトウェアの開発環境に徹底的に向き合いながら、自分たちの味である「ユーモア」による行動変容を作り出した結果が「Wakeout!」の成功だった。同時に、世界中の国々の開発者にとって、世界を変える可能性を秘めていることもまた、学びとなった。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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