社員全員「業務委託」にした会社に起きた変化 大企業によるジョブ型導入の相談も増えている

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「ジョブ型は、会社と個人による、“職務(ジョブ)の市場取引”と考えてください。個人のスキルとリソースを、会社が対価を支払って買いとり、成果が出なければ契約解除となる。日本的な“雇用死守”を前提としたスタイルとは根本から違った思想を持った雇用形態が、ジョブ型です」と白井氏は話す。

日本企業の多くが採用している雇用形態は、労働法学者の濱口桂一郎氏が名付けた「メンバーシップ型雇用」が一般的な名称だ。

メンバーシップ型は、バブル期までは理想的な雇用形態だった。当時、日本企業の主力は自動車や電化製品などのモノづくり産業。作業への習熟度が高ければ高いほどクオリティの高い製品を作れるため、会社に長く勤め、習熟度の高いベテラン社員の給与が高くなることは、ある意味自然なことだった。

しかし、1990年代以降、変化の早い情報産業が台頭し始めると、メンバーシップ型雇用は「足かせ」として日本企業に重くのしかかることとなる。

「ビジネルモデルを変更しようとしても、人員整理ができず、動きが遅れる。専門職を雇おうとしても、年功処遇のため若いプロ人材に訴求できない」と白井氏は問題を指摘する。「こうした『負のループ』が、日本企業を後退させてきました」。

白井氏によると、バブル崩壊後、日本企業の多くは成果主義や、ジョブグレード制度の導入など「雇用保障を前提としながらも、一部、ジョブ型的な施策の導入」行ってきた。しかし、十分な人材流動性は実現できず、米中や新興国に後れをとり、フレキシブルな人材活用ができない企業が増えていった。

このままではいけない、という停滞感の中、やってきたのが新型コロナのパンデミックだった。テレワークのマネジメントにおいて「仕事の明確化」の動きが高まったことが、企業を新しい雇用形態へと走らせたのかもしれない。

「ジョブ型」最大の問題とは

日立製作所、富士通、資生堂、ヤフー……。多くの大企業がジョブ型を実施する中で、さまざまな有識者がジョブ型の問題点を指摘している。その最たるものが、既存の組織とのハレーションだ。いくら即戦力度が高く優秀な人材とはいえ、「パラシュート人事」で人材を配置することは、現場の不和を生んでしまうリスクがある。

しかし、この問題をプロセスの見直しによって解決した企業があると聞き、ヘルスケアD2C事業を手掛けるMEJに話を聞いた。同社はベンチャー企業だが、「全社員、プロ人材との業務委託」にて組織を運営している。

もともと新卒採用も行っていたが、2018年から組織をジョブ型に移行。同社で働く約30人のメンバーは、既存の正社員数名を業務委託契約に切り替え、そのほかはプロシェアリングサービスなどを通じて外部のプロ人材を活用している。MEJ代表の古賀徹氏はジョブ型のメリットとしてスピードの速さを強調する。

「新卒人材の育成には数年、ヘッドハンティングを活用した中途採用には約半年はかかりますが、ジョブ型であれば、”広告代理店で広告運用を億単位で実施した経験”などの明確なスキルを持つ優秀な人材をスピーディーに活用できます」(古賀氏)

実際に必要な人材をスピーディーに活用することで、同社の売り上げは今年の1月と10月で比べると5倍に増加し、定期購入者は10倍に増加している。また、古賀氏はジョブ型の採用プロセスにおいて「重要なのは、採用時に“現場の責任者”を同席させること」と語る。

「現場責任者を面接に同席させ、実際に会って話をすることで、既存のメンバーが納得した状態で迎え入れることができ、業務もスムーズになります。いくら優秀だからと言って、独断で連れてきたプロを入れても、現場は反発してしまいますからね」と、古賀氏は語る。

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