いつになれば普及する?EV充電器の問題点 巨額補助金の次は、自動車4社で充電会社設立

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ただ、これで思惑通りに整備が進むのかは不透明だ。設置事業者にとっては初期投資も運営費も必要がなくなったとはいえ、収益を得ることもなくなる。ノーリスク・ノーリターンになるため、投資する動機づけが低くなる。

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これまでは各社が独自に設置してきた。写真は三菱自動車の充電設備(撮影:尾形文繁)

EV利用者の客寄せを狙って約500店舗に充電器を導入すると発表したファミリーマートなどの例もあるが、充電スペースの確保や、現場での応対などそれなりに手間もかかることなどを考えると、設置事業者が急に増えることはないだろう。

さらに、仮に整備が進んだとしても日本充電の経営問題が残る。そもそも充電器設置に収益性がないから民間による整備が進まないわけで、赤字は必至。自動車会社にとってはEVやPHVの販促の一環と割り切れても、補助金や政投銀資金はもともと国民が出したカネだ。

本来の目的であるEV(やPHV)の普及拡大につながらない可能性も高い。充電インフラがないからEVが売れない、というのが整備推進の理由だが、航続距離が短いという不便さを、急速充電でも1回30分はかかる充電器の数でカバーできるとは考えにくい。現在でも、すでに急速充電器の普及基数は日本が世界でダントツの1位となっているにもかかわらず、EVの普及台数は6万台程度で、伸びは緩やかだ。

ほぼ充電池に起因する価格の高さも含め、EVには、商品としての本質的な限界がまだあり、それが普及の足かせとなっている。むりやり充電インフラを整備しても無駄に終わる可能性がある。

燃料電池車も課題は同じ

インフラ整備の難航は、EVと並んで次世代自動車の主役と位置づけられている燃料電池車(FCV)でも同様だ。FCVは水素を燃料とした燃料電池(FC)で走行する電気自動車で、CO2の排出がゼロなど環境対応車として期待されている。現在は試験車両が自治体向けなどにリース販売されているところだ。政府と自動車など業界団体は、2015年に一般向けFCVの販売を開始するとともに、東名阪福岡など大都市中心に100カ所程度の水素ステーションを整備する計画を掲げている。

FCV自体については、トヨタ自動車、ホンダが昨年、相次いで市販車を想定したコンセプトモデルを公表するなど準備が進んでいる。だが、水素ステーションの整備は進んでいない。経産省では設置費の半分を負担する補助金を用意しているが、今のところ、設置済みおよび整備が決まっているのは、合わせて31カ所しかない。2014年度分の補助金は2度の募集でも枠が埋まらず、現在、3次募集を掛けているところだ。

水素ステーションは、電線を引けば事足りる充電スタンドとは異なり、高圧ガスタンクなど高額な設備が必要になる。整備にかかる費用は、1カ所あたり5億円程度とされる。半分補助があっても、1カ所2億~3億円の投資が必要だ。顧客となるFCVは、発売から数年間で数万台も普及すれば大成功で、そこから収益を上げることは不可能だ。技術開発や規制緩和で設備コストは下がる見込みとはいえ、そうそう投資できるものではない。

すでに自動車がそれなりの数存在し、投資も安いEV、PHV用充電器ですらインフラ整備は容易ではない。まして自動車の販売はこれから、投資もケタ違いにかさむ水素ステーションの整備も、これから紆余曲折がありそうだ。

丸山 尚文 東洋経済 記者

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まるやま たかふみ / Takafumi Maruyama

個人向け株式投資雑誌『会社四季報プロ500』編集長。『週刊東洋経済』編集部、「東洋経済オンライン」編集長、通信、自動車業界担当などを経て現職

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