ユニクロ最年少役員だった男が悟った「登る山」 人の声に耳を傾け心に火をつける「トーチング」

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だが、神保さんは次第に「残りの人生をライフワークである人の心に火をつけることに力を注ぎたい」と真剣に考えるようになった。企業という枠組みを離れ、社会という広いフィールドに飛び出したいという思いもあった。

起業前にまとめた事業計画を書いた紙。無料相談を続けるためにはどんな施策が必要かが書かれている(神保拓也さん提供)

世界的なアパレル企業に成長したファーストリテイリングの上席執行役員という役職を手放すことに迷いはなかったのか。「当時、子どもが生まれたばかりで、生活が変わることにはもちろん不安はあった。でも妻にプレゼンしたら『ずっとやってきたことだよね、すごく向いてるんじゃない』と言ってくれて、最大の味方ができた」と話す。

こうして神保さんは2020年1月にファーストリテイリングを退社し、5月31日にトーチリレーの事業をスタートした。今はファーストリテイリング時代の部下だった岸野佑亮さんと2人で活動している。

人の心に火をつけることで、自分の心の火が大きくなる

トーチリレーの1時間半の相談は無料だ。ではどうやってマネタイズしているのか。相談者の悩みとやり取りをまとめた会員制の日記(月額1000円)と、日記の内容を解説したラジオ配信(同3000円)が収益源になっている。

また最近では企業から「心に火をつけるセッションをしてほしい」と声がかかることや、地方で就職活動をする前の大学生に向けて講演することも増えてきた。経営者に向けた複数回のレクチャーも始めた。

無料の相談では、約1時間半にわたり相談者の話を徹底的に聞く。時には厳しいことを言うこともあるし、相手と激論を交わすこともある。でも後日、相談者から「神保さんに話してよかった」と長文のメールが届くと、「相談に乗ってよかったと、自分の心の火が大きくなるのを感じる」という。

インタビューの最後に経験を積んだ40〜50代が登るべき山の見つけ方を教えてほしい、と頼んでみた。「40〜50代はさまざまな経験を経て、一丁上がりの状態になっているかもしれない。でも子ども時代を含め、この山に登ろうと心に火がついて夢中で登った経験は誰もがあるはず。火のつけ方を忘れたときは手伝わせてほしい」。神保さんはこう答えた。

社名のトーチリレーとは、英語の「torch(松明)」にちなんでいる。「松明で心の火をともすことに主眼を置いたトーチングで、リレーのように心に火をともす人を増やしたい」。神保さんのトーチリレーはスタートを切ったばかりだ。

国分 瑠衣子 ライター

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こくぶん るいこ / Ruiko Kokubun

北海道新聞社、繊維専門紙の記者を経て2019年に独立。社会部、業界紙の経験から経済・法律系メディアで取材、執筆。趣味はおいしい日本酒を探すこと。Twitter:@8kokubun

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