ミス・ユニバース「ハーフ女性」が台頭する理由 多文化な背景を持つ日本人の勢いが増している

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第2として、次の点を考慮に入れる必要がある――今回の大会では最終的に勝者となった女性、そして2、3位になった女性たちだけが多文化で育った経歴を持つハーフではなかった。このほかにも、柚井愛麗 (スウェーデン系日本人)、リトル満里菜(ニュージーランド系日本人)、平良あすか(ベトナム系日本人)、そしてサイード横田仁奈(パキスタン系日本人)と4人いたのである。これまでの大会と比較しても、日本でこれだけ多様な文化的バックグラウンドを持つ候補者が集まった大会はなかった。

第3に、大会が開催された時期だ。ミス・ユニバース・ジャパン・ファイナルが開催される約1カ月半前に、別の大会でハーフの女性が優勝の名誉に手にしていた。テニスの全米オープンで優勝した大坂なおみである。彼女が自身と同じ肌の色を持つ人々が、いわれもなく命を失っているという主張をしていた。大坂が全米オープン会期中、アメリカの警察によって殺された犠牲者の名前が書かれたマスクを揃え、対戦相手が変わるごとに、替えて着用していたのは記憶に新しい。

テニスコートで黒人の命の大切さを訴える、ハーフ女性の美しさと、ステージ上の黒人に限らない多くの人種とのハーフの存在をアピールする、女性たちの美しさを結びつける審査員がいたとしても不思議ではない。

また、日本のメディアでも、これまで制作されたことのないような番組が制作されている。あるNHKの番組では、アフリカ系のハーフの日本人が経験する人種差別と自覚なき差別(マイクロアグレッション)、それでも、自らがこれまで故郷と呼んだ唯一の国、日本に住み、愛し続ける葛藤の日々が描かれ、話題を呼んだ。

ハーフではない日本人への差別か

これだけの要因があれば、そのいくつかは審査員に影響を及ぼしていたのではないだろうか。しかし、こうして今起きているこうした「変化」は、ハーフでない日本人に対する差別なのだろうか? それよりは、これまでハーフではない日本人が行ってきた、ハーフに対する不当な扱いへの社会の目覚めが(日本人が自覚していたかどうかは別として)、何らかの変化を起こしているとは考えられないだろうか。

そこで私は妻に言った。
「こういうさまざまな理由に加えて、春から夏にかけて、世界中で、そして日本ででさえ、反人種差別のマーチが行われたことで、これまで人種差別は存在しないと信じていた日本において、突然、人種差別が存在することをいろいろと認識させられて、日本人の考え方も、少しは変わったってことはない?」
「確かにあなたが言っていることにも一理ある」と、妻も認めてくれた。

彼女と私は、多文化、異人種と交わり、喜びを感じ、何かに対して責任を負う経験を多く共にしてきた訳ではない。しかし、国際社会について多くを書き、積極的にかかわりを持ってきた一員であり、国際社会と多くの関わりを持つ人々と親密につながっている立場から、日本で今起こっていることを眺めると、将来の日本に楽観的な見方ができる。

日本は、人種、性別、性的指向、障害など何を持っていようが、持っていまいが、誰もが平等な権利と機会を持っている国になるだろう。ただ人間であることで、人間性は完全に認められる。それが、必然的に日本が向かうところであり、だからこそ、私はこの国を故郷と呼ぶことに誇りを持っているのだ。

バイエ・マクニール 作家

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Baye McNeil

2004年来日。作家として日本での生活に関して2作品上梓したほか、ジャパン・タイムズ紙のコラムニストとして、日本に住むアフリカ系の人々の生活について執筆。また、日本における人種や多様化問題についての講演やワークショップも行っている。ジャズと映画、そしてラーメンをこよなく愛する。現在、第1作を翻訳中。

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