「裏社会でも覚醒剤中毒は嫌われる」意外な理由 強迫観念や幻視で錯乱状態になる様子は狂気

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正直なところマリファナで人殺しをすることはないが、覚醒剤使用者だと事件に発展しかねないし、実際にそういう事件も過去に起きている。

有名なところでは4人を殺害した深川通り魔殺人事件などは、日本犯罪史に残る凶悪事件として記録されている。犯人の川俣軍司は覚醒剤使用ののち、通行人を無差別に殺傷したのだ。逮捕時のブリーフ一枚の姿は、多くの人の記憶に残るものとなっている。

この事件でもわかるように覚醒剤は強烈な麻薬である。特に副作用がヤバいのだ。強迫観念、幻視、幻聴などが襲ってきて錯乱状態になる様子は狂気である。しかもこうした副作用から逃れるようと、さらに薬物を手に入れるため、次第に善悪の観念すらもなくなり、ときには殺人すら起こしかねない。それがシャブ中なのである。

「シャブ中(覚醒剤の中毒者)だけは信用できねえよ」

このように言ったのは、現役ヤクザの知人だ。裏社会に生きる者にとっても、覚醒剤に手を出す者は別格で危ない奴とされている。というのも、脅しも暴力も論理的な詰問も彼らには通用しないからだ。それほどまでに覚醒剤を体内に入れた人間というのは人外の領域にいってしまっている。

覚醒剤は世界でもポピュラー

実はこのように敬遠されるのは日本ばかりではないのだ。もしかしたら覚醒剤が海外で使用されているイメージがないかもしれないが、実際にはかなりポピュラーな麻薬なのである。日本ではシャブ、スピード、エス、東南アジアではアイス、タイではヤーバー、欧米ではメスやクリスタルなどと呼ばれている。

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呼び名があるということはそこに市場があるということ。日本のみならず東南アジアや中国、アメリカやメキシコなど、広く世界中の薬物愛好家の間で親しまれている裏付けでもある。

日本での価格は、約0.1グラムで2020年現在1万円程度だ(一回の使用量は0.03グラムほど)。マリファナがジョイント1本で5000円程度であることを考えると(ジョイントはタバコ状になった大麻で持続時間は2〜4時間と長く使用できる)、高級品であることがわかる。

このように世界的にポピュラーな人気を見せている覚醒剤だが、マリファナの産地として知られるジャマイカでは、日本以上に覚醒剤が嫌われている。ジャマイカでは、ラスタファリズムという自然崇拝思想が根強い。そのため、化学的に合成された薬である覚醒剤を使用することを極度に嫌悪しているのだ。

どれほど嫌悪しているのかというと、「ジャマイカにはホームレスがいない」とされるほどコミュニティにいる人々を大事にし、相互補完的に助け合って暮らしている。つまりは、仲間を絶対に見捨てないのだ。

ところが、例外が2つだけある。それは親不孝者と覚醒剤に手を出した者である。この両者はコミュニティから追放されてしまうのだ。

それほどのリスクがある薬に手を出して得られる快楽は2時間ほど。人生のなかでは本当に一瞬である。それだけのために手を出していいものかどうか、考えるヒントになれば幸いである。

丸山 ゴンザレス ジャーナリスト、編集者

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まるやま ごんざれす / Gonzales Maruyama

1977年、宮城県生まれ。考古学学者崩れのジャーナリスト・編集者。國學院大學学術資料センター共同研究員。國學院大學大学院修了。無職、日雇い労働などから出版社勤務を経て独立。現在は国内外の裏社会や危険地帯の取材を続ける。著書に『アジア「罰当たり」旅行』(彩図社)、『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』(講談社)、『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社)などがある。

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