韓国「インフルワクチン大量死」デマの真相 韓国はいかにして国民の恐怖を抑えたのか

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「高齢者は脳卒中や心臓発作で毎日亡くなっている。それなのにメディアは、通常ならこのような人々は誰も亡くならなかったかのような調子で(予防接種後の)死亡例を報道した」と、政府のワクチン監督グループのメンバーを務める国立がんセンターの奇牡丹(キ・モラン)教授(公衆衛生学)は語る。「(政府の調査)結果を待つ間にも国民の不安は高まり、(ワクチンへの)信頼感が低下し、予防接種プログラムに悪影響が出た」。

世の中の不安を少しでも払拭しようと、嘉泉大学のチョン教授は国際学術誌『ジャーナル・オブ・コリアン・メディカル・サイエンス』で意見記事を発表し、予防接種後にワクチンとは無関係の原因でたまたま人が死亡することはある、と指摘した。記事中でチョン氏は、75〜84歳のアメリカ人10万人当たり23人がワクチン接種後1週間以内に、さまざまな要因で死亡していたことを示す2013年の研究を引用した。

チョン氏の記事掲載から数日後、韓国政府は記事で引用されていたアメリカのデータに対応する韓国の数字を公表した。それによると、2019年にインフルエンザワクチンの接種後1週間以内に死亡した65歳以上の韓国人は1500人。死因にワクチンが関係していたものは1例もなかった。韓国では例年3000人がインフルエンザで死亡しているため、予防接種にはリスクを大幅に上回るメリットがある、と保健当局は主張した。

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手本は韓国、反面教師は日本とデンマーク

ノースカロライナ大学のブリューワー教授は、今後予想されるワクチン不信に対処するうえで韓国の対応は手本になる、と話す。世界の予防接種プログラムに対する主な脅威は誤情報であり、そうした誤情報は安全性に関する根拠のない不安と関連していることが多いからだ。

その1例としてブリューワー氏は、日本とデンマークに蔓延したヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンに関する誤情報を挙げる。このワクチンは子宮頸がんなどの予防に効果があるが、日本とデンマークは誤情報の対応にしくじり、HPVワクチンの接種率が急落した。

韓国では予防接種キャンペーン開始後の数週間で、インフルエンザワクチン接種後の死亡例が政府に100件以上寄せられたが、当局は速やかに死因を公表。死因はどれもワクチンとは無関係だった。

検視でわかったのは、全員が大動脈解離や急性心筋梗塞、脳溢血など、ワクチンとは無関係の要因で死亡していたことだ。大半が循環器疾患などの基礎疾患を抱えていた。17歳の若者の遺体からは毒物が見つかった。家族は自殺する理由はなかったと主張しているが、警察は自殺の可能性が高いとしている。

「やみくもに『いや違う、ワクチンとは関係ない』と言っても、不信感を高めるだけ」。ワクチンと感染症に詳しいニューヨーク大学ランゴーン医療センターのバネッサ・ラーブ助教授は韓国の対応を称賛し、こう語る。「『関係ない』と言う前に、科学的な検証が必要だ」。

(執筆:Choe Sang-Hun記者、Denise Grady記者)
(C)2020 The New York Times News Services

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