韓国「インフルワクチン大量死」デマの真相 韓国はいかにして国民の恐怖を抑えたのか
数百万回分のワクチンを輸送するために契約した企業は、ここまで大規模な輸送を手がけた実績がなかった。インフルエンザワクチンはセ氏2~8度で冷蔵保存する必要があるが、野外の駐車場に積み上げられたワクチンの箱の写真が9月21日からインターネット上で拡散し始める。
政府は念のため予防接種プログラムを一時停止し、調査に入った。10月6日には、ワクチンは安全との結論が出た。それでも屋外に長く放置され、有効性が失われた可能性のある48万回分のワクチンは回収された。
その3日後、別の会社が輸送した61万5000回分のワクチンも、製品内に白い粒子状の物質が見られたため回収となった。政府が確認したところ、無害なタンパク質粒子だった。
韓国のインフルエンザ予防接種キャンペーンは10月13日に再開されたが、国民の警戒感はなかなか抜けなかった。
コロナ禍がデマの温床に
翌週、17歳の高校生がインフルエンザの予防接種を受けた後に死亡したとする遺族の話が報道される。その後、予防接種後の死亡を伝える報道が相次いだ。大半は70歳を超える高齢者だった。死亡例は10月22日までに28人に達し、日に日に増加。これを受けて、シンガポールは韓国製ワクチンの使用を一時的に停止する。
ソウル近郊にある嘉泉(カチョン)大学医学部のチョン・ジェフン教授(予防医学)はこうした報道を目にし、危機感を募らせていた。
インフルエンザワクチンは韓国で何十年と安全に使用されてきた実績がある。根拠不明の主張によって、これほどたやすくインフルエンザワクチンの信頼性が損なわれるのだとしたら、何百万人という人々が新型コロナワクチンを接種し始めたときにはいったいどうなるのか。人々の誤解を正さなくては——。
「新型コロナによる異常な状況で人々がワクチンに過敏になっていることから、こうした極端な現象が生まれたのだと思う」。チョン氏は10月22日、フェイスブック上でニュースを批判する一連の投稿を行い、その最初にこう記した。
科学的根拠がないのに「予防接種後の死亡例」を数えるのは、朝食後に死亡した人の人数を数えるのと同じくらいばかげている、とチョン氏はクギを刺した。「国民にこうした点を理解してもらわなければ、韓国でも米欧のように反ワクチン運動が広がりかねない」。
政府はワクチンの安全性を支持する一方で、誤った情報には科学で対抗しようと死因の調査に乗り出した。仮にすべての死亡例が特定のワクチンや診療所に関連したものであったり、すべての死因が似通ったものであったりした場合には、注意を喚起しなくてはいけない。重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーによる死亡が複数例確認された場合も、ワクチンとの関連性が疑われる。
しかし、最終的にワクチンとの関連性を排除することになる政府の検視の進捗よりも、パニックが広がるスピードの方が速かった。