ローランド社長がMBOに込めた改革の思い 創業者と対立、どこで意見が食い違ったのか

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今回の場合、まずファイナンスに関しては、稼ぐ力を取り戻すためにかなり慎重な議論を重ね、目標を立てている。また運営に関しても、タイヨウ・ファンドとローランド経営陣の目指すゴールに乖離はないと思っている。

まず、タイヨウさんは約7年間という長い期間、ローランド株を持ってくださっているインベスターだということ。これまで経営陣や現場のキーパーソンと130回に及ぶミーティングを重ね、信頼関係を作ってきた。私たちが立てた中期経営計画についても、確実に短期間にやり遂げようと合意できている。

もちろん、ファンドであるからには利益を出すことが必須。だが、タイヨウさんにとっても、MBOはこのローランドの案件が初めてで、絶対に成功させなければならないという強い思いがある。成功というのは、単にリターンがあるというだけではなく、「ローランドはタイヨウと組んで正解だったね」と、日本の株式市場で評価されることなのではないか。

タイヨウとは意思疎通できている

――しかし梯氏は、アートウエア(芸術の領域にかかわる仕事)が短期的な利益を追求しなければならない投資ファンドのビジネスモデルとマッチしにくいと主張している。

シンセサイザーをはじめとする電子楽器では、今もなお、世界的な存在だ

確かにわれわれの扱っている楽器には、ロングレンジの開発を必要とするものがある。その特性については、長きにわたるコミュニケーションを経て、タイヨウさんも理解してくださっていると考えている。

一方で、これから10年先に何が花開くのか、どこなら投資の可能性があるのか、逆に、もはや投資をしても難しいのはどこか、といったことを見極める方法は、20年前、30年前とはまったく同じではない。

リーマンショックを経て、楽器業界ではお客さんの志向も、流通のあり方も大きく変化した。ローランドに目を向ければ、社員の平均年齢が上がり、愛用してくださっているミュージシャンも高齢化している。今、新しい音楽を作っている若い人たちの考えていることは、昔とは変わっている。

今後もローランドが音楽業界で認められていくために、ここでやり方を大きく変えることも必要なのではないか。ローランドはイノベーションで成長してきた会社。世界初の楽器もたくさん投入してきた。そういう姿を取り戻すためにタイヨウさんの視点や力を借りることは、ローランドの創業の理念からなんら外れることではないだろう。

――ローランドの核であったイノベーション力はなぜ鈍ってしまったのか。

お客さんとの距離ができてしまったことに尽きる。ローランドはもともと、エンジニアがマーケティングから商品企画までを一貫して行う特殊な会社。30年前は、エンジニアが「こうだ」と思って作ったものがお客さんのニーズをとらえていたが、現在はそこにどんどんギャップが生まれてしまっている。「いいものさえ作れば売れる」という考え方だけでなく、もっと現場に出て、ミュージシャンの気持ちを探らなければならない。

次ページ社員は「お客さんのほうを向け」
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