マイケル・J・フォックスが引退表明した理由 難病との戦いにも負けない「素敵な楽観主義者」

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以後は、2014年の『ANNIE/アニー』などにカメオ出演をしたり、アニメの声を担当したりする。そこへ、またもや不幸が訪れるのだ。2018年、発がん性のない腫瘍を取り除くため、危険を伴う脊髄の手術を受けた彼は、無事手術を終え、ようやくなんとか歩けるようになったところ、家で突然倒れて腕を折るケガをする。その4カ月後には、Netflixの映画『See You Yesterday』の撮影中に、倒れて、またケガをするのである。

世界中の人々に勇気と希望を与えてくれた

そのたびに、フォックスはいつも立ち上がり、自分の足で歩こうとしてきた。それができるのは、今回の本のタイトル『No Time Like the Future: An Optimist Considers Mortality』にあるように、彼が楽観主義者(Optimist)だからだ。

「感謝して、受け入れようとすれば、楽観的な姿勢は保ち続けられる。自分に起こったことを受け止め、そのまま受け入れる。それは、変えられないということを意味するのではない。また、罰としてそれを受け入れろというのでもない。ただ、正しい場所に置くのだ。そして、それ以外の人生がどれだけあるかを見つめ、先に進むのだ」と、フォックスは「People」誌の取材に対して述べている。

そんな彼の前向きな姿勢は、世界中の人々に勇気と希望を与えてくれた。その姿をもう映画やテレビで見られないのは悲しいが、今はこうして物を書くことを楽しんでいるという彼は、別の形でクリエーティビティーを発揮し続けることだろう。それに、まだわからない。

今回の本でも、彼は、「二度目の引退に入ることにしました」と言いつつ、「でも、変わるかもしれません。何だって変わりうるのだから」とも言っているのだ。彼の気持ちも、病状も、変わりうる。たとえ小さな役であっても、この素敵な楽観主義者のお姿を、私たちは、きっとまたどこかで拝見できるのではないか。

今月18日、アメリカのテレビ番組『THE TONIGHT SHOW STARRING JIMMY FALLON』にリモートで出演した際のマイケル・J・フォックス(写真:NBC/Getty Images)
猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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