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大家族生活からドヤ街に流れた男の意外な最期 「寿町」の住人・サカエさんは静かに眠れたか

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本当はいけないのだが、どうせ部屋の中のものは全部捨ててしまうのだから、取材の足しになるのなら鍵を貸してあげると帳場さんが言う。

私が線香を買ってサカエさんの部屋に行くと妻に言うと、お供えしてほしいと言っておにぎりを握った。取材の最中に、サカエさんが弁当屋のおにぎりをご馳走してくれたと話したことがあったのだ。

部屋の中にあったもの

『寿町のひとびと』(朝日新聞出版)
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ドアの鍵を開けると、ベッドサイドのテーブルに缶入りの甘酒が何本か置いてあるのが目に入った。甘酒の前にアルミホイルを敷いて、線香を供えた。妻が握ったおにぎりは、コンセントがつながったままの小さな冷蔵庫の中に入れた。

部屋の内部は主がいないこと以外、インタビューをした半年前とほとんど変わっていないように見えたが、私はテーブルの上に意外なものを発見した。それはページの隅が何カ所も折られ、ボロボロになるまで読み込まれた一冊の本である。サカエさんはおよそ読書とは縁がなさそうな人物だったが、タイトルを見てハッとした。

『人は死なない』(矢作直樹・バジリコ)

サカエさんはひとりで死んでいく恐怖から逃れるために、ベッドに寝た切りでこの本のページをめくり続けていたのだろうか。

サカエさんは「オレは満ち足りてる」と言った、私はそれを真に受けた。この人は愚行の限りを尽くした果てに、なにかしらを達観したのだと思った。しかし、死を目前にした人間の心は、それほど単純に割り切れるものではないのかもしれない。

サカエさんが静かに眠ったのかどうか、もはや確かめる術はない。

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