大家族生活からドヤ街に流れた男の意外な最期 「寿町」の住人・サカエさんは静かに眠れたか

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「違うよ! 旅行に行ったんだよ。青森、岩手、十和田湖とか裏妙義とか、家族旅行にも行ったんだよ。鹿児島も行った。楽しいことがたくさんあったんだよ」

サカエさんは意外なことを話し始めた。

ミチコの連れ子の長男が中学生になったとき、ひとつ年上の恋人ができたという。恋人に何か買ってやりたかったのか、長男は川崎競輪で5万だけ打たせてくれとサカエさんにせがんだ。

当時のサカエさんは仕事場に直行直帰していたから、懐に売り上げ金を持っていたが、使い込みがバレればまたぞろトラブルだ。しかし長男は、どうしても勝負させてほしいと言って聞かなかった。サカエさんは長男に、売り上げの中から5万円を渡した。

「それが、外れちゃったんだよ。次の日会社に行ったら、売り上げはどうしたって聞かれて、いつもならお金を貸してくれる人がいるんだけど、その日はたまたまいなくて、(社長の)奥さんに言ったら、もうかばい切れないって言われたんだよ」

先述した戸塚での金銭トラブルとは、このことだったのだ。

なんと長男の恋人まで…

長男の恋人は家庭の躾が厳し過ぎるのを嫌って家出をしていたそうだが、なんとサカエさんは1年間、その家出娘の面倒をみたという。

「その子の親が仕事を定年退職して、故郷の鹿児島に帰るとき、娘も一緒に鹿児島に行ったんだよ。おんで、お世話になったっていうんで、オレを10日ぐらい鹿児島に招待してくれたんだよ。キビナゴ、焼酎、霧島、池田湖の大ウナギ、長崎鼻。桜島は船で行ったよ」

サカエさんは、ここだけはスラスラと旅の思い出を口にした。どうやら日本地図は、いくつかの楽しかった旅の思い出を反芻するためのよすがであるらしい。

長男は中学を卒業すると恋人を追いかけて鹿児島に行き、ペンキ職人になった。結婚して子供ももうけたが、仕事中に足場から転落して脚を骨折して仕事ができなくなり、鹿児島に子供を置いたままでサカエさんの元に戻ってきた。しばらくの間サカエさんが面倒を見たが、後に養子縁組の解消を求めてきたことは、すでに述べた通りである。

酒とギャンブルに溺れ、家族からも兄弟からも見放された人生、愚行権の行使そのもののような自分の人生を、サカエさんはいったいどう思っているのだろう。

「よく遊んだよー。競輪にも女にもたくさん金を入れた。借金借金で兄弟から見放されて、両親の葬式にも呼んでもらえなかったけど、生活保護を受けるときに自己破産して借金がチャラになったら、新橋のサラ金が謝りに来いって言うから、ちゃんと謝りに行って勘弁してもらったんだよ」

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