大家族生活からドヤ街に流れた男の意外な最期 「寿町」の住人・サカエさんは静かに眠れたか

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

だが、さすがというべきかなんというか、わがサカエさんはこの施設でもトラブルを起こして、追い出されるハメになった。入所者3人でスナックに行ってさんざん飲んで歌ったあげく、代金を払えずに警察を呼ばれてしまったのである。

「夜中の12時頃、NPOの事務長がスナックに迎えに来てくれたんだけど、明日の朝寮を出ろって言われたんだよ。おんで、オレとナガシマって人が寮から出されたの」

サカエさんは長時間話し続けたせいで頭が疲れてきたのか、呂律が回らなくなってきた。しかし、こちらが誤った聞き取りをすると、「違う!」と大きな声で訂正を入れる。昔のことを細部までよく記憶しているのに驚かされる。

「神の部屋」

NPOの施設を追い出されたサカエさんは、中区役所でドヤの部屋代を貸してもらって寿町のS荘に収まった(宿泊費は後に保護費から返還する仕組み)。同時に「酒に問題があるから」という理由で、アルコール依存症者の支援をしているNPO法人、市民の会寿アルクを紹介されている。

サカエさんの自己申告ではあるが、アルクのスリー・ミーティング(断酒継続のために1日に3回ミーティングをする)に1日も欠かさず通って、2年間で卒業のお墨付きを貰った。ところが、卒業直後に焼酎をしたたかに飲んで、「S荘の部屋のものをバラバラにしちゃった」という。

「黒霧島を飲んだら、お前は神だとお告げがあったんだよ。警察の人は隣の部屋の人に手をあげたと言うんだけど、覚えてない。裸のままパンツも穿かないで警察に連れていかれて、お前は神だってお告げが出たって言ったら、これが神の部屋かって、写真を見せられた。ひどい部屋だったな」

「裸でパトカーに乗ったんですか」

「違う! バネットってバンだよ」

警察から旭区のあさひの丘病院(精神科病院)に送られて、1カ月間入院。退院時にケースワーカーから当座必要な金を借り、バスと電車を乗り継いで寿町に戻ってきたが、病院を出たばかりのサカエさんを受け入れてくれるドヤはなかなか見つからない。扇荘新館の帳場に相談して、ようやく扇荘本館の部屋に入ることができたが、今度はこの部屋で脳梗塞を起こしてしまった。

「ことぶき共同診療所で薬を貰ってたから、いつもなら(共同炊事場に)薬を飲みに行くんだけど、足が麻痺しちゃって動けなくて、床に転がったまま寝返りも打てないんだよ。布団も毛布もかけないで二日間床に転がってて、声も出ないし、冷蔵庫にペットボトルがあるのはわかってたけど、手が利かないから取れないし……。もう、死んじゃってもいいと思っていたんだよ」

次ページ数日後に発見されたサカエさんは…
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事