39歳コピーライターが「ゆるスポ」発案した経緯 子どもの障害発覚を機に仕事の在り方を改めた
──息子さんとの日々の生活が自然とつながるんですね。
そうですね。ふつうの小学校に行くと「青い空」「初日の出」といった習字が張り出してあるでしょう。でも、盲学校はみんな目が見えないものだから同じ字が書けない。そもそも点字の子たちは、墨で字を書くということを学ばない。それで書の時間には先生がまず半紙の大きさを確認させ「きょうは元気でいきましょう」というと、それぞれが自由に浮かんだものを書く。授業参観で見たときに、めちゃくちゃカッコいいと思った。
(パソコンの写真を見せながら)これは息子が年長さんの2学期。そして3学期に見に行ったら、張り出されていたものが1枚の紙ではなく巻物のようになっていた(文字でなく墨汁の線がうねるモダンアートのような作品)。もうなんてクリエーティブなんだろう! まったく常識にとらわれていない。これには敵わないなと思った。
5、6歳の子どもが書いているものに衝撃を受け、たまたま百貨店の紳士服売り場の人と話していたら「ネクタイが売れない」という話になったので、「じゃあ、新しい価値をつけませんか」と。ネクタイの縦横比と半紙のそれとが近いのもあり、撮っていた巻紙写真を見せてブラインド書道を提案したんです。
取り組みがビジネスにつながったことも
──実際にはどんな催しになったのですか。
ブラインドサッカーの選手に声をかけ、細かな説明をせずに当日は「好きに書いてください」と抽象絵のようなもの描いたり、見えないものだから筆が紙からはみ出したりして、それが逆に計算外でおもしろい。作品としていいなと思った。実際商品化されたのはシックなものに落ち着いたんですが、柄は選手が書いたものを使い、売り上げの一部はブラインドサッカー協会に寄付することにしてもらったんです。
──ただネクタイを選ぶだけでなく、そこに関わるというか気持ちが動くということですね。
そうそう。そういうやりとりをしていると百貨店の人からも「めちゃくちゃ楽しい。働く喜びを思い出した」と言ってもらえたし。そういうふうにして、どんどんいろんな人を境界線上に引っ張ってきている。
いまは自分の仕事に誇りをもてないという人が多いといわれるでしょう。自分はいい仕事をしている。そう言える人を増やしたい。でも、これはぜんぶ息子が生きやすい社会にしたいということにつながっているんですよ。
──ネクタイは結果的に会社のビジネスになったけれど、ならないということも多いんですか。
ありますよ。ゆるスポーツでいうといま90競技ちかくあるんですが、お金ありきでつくったのは2~3割。日ごろレンタルリースをやっているのでイベントに貸し出すとかで資金を貯め、それをもとに小児癌の子に向けて何かボランティアでつくろうとか。
それも知り合ったひとりの子をイメージしながら。どっちかでいうと、後者が7割。やっているとあとからスポンサーが出てくるとか。そういうふうにして、できるだけ矛盾をはらませたいんです。バキバキ金を稼いでいるスポーツもあれば、まるっきりというのもあって。でも等しく「ゆるスポーツ」と呼ばれる世界観が好きなんですよね。
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