離婚後も名字変えない女性、「旧姓」に戻せるか 子どもの意思を尊重して結婚時の姓を継続

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裁判所は、女性が離婚後15年以上、婚姻中の氏を称してきたことから「その氏は社会的に定着しているものと認められる」とした。

このように、氏が社会的に定着したといえる場合は「やむを得ない事由」の判断が厳しくなることも考えられる。

しかし、裁判所は、次のような事情から「やむを得ない事由」があるものと認められるとした。

1)女性が婚氏続称を選んだ理由は、長男(当時9歳)が学生だったためであるところ、長男は本決定の約2年半前に大学を卒業したこと

2)女性は離婚後、女性の婚姻前の氏である両親と同居していたが、その後9年にわたり、両親とともに婚姻前の氏を用いた屋号で近所付き合いをしてきたこと

3)女性には妹が2人いるが、いずれも結婚しており、両親と同居している女性が両親を継ぐものと認識されていること

4)長男は女性が氏の変更許可を求めることについて同意していること

そして、原審判を取り消し、女性の氏を婚姻前の氏に変更することを許可する決定をした。本決定では、婚氏続称を必要とする事情が消滅したことなども考慮されているといえる。

どちらかが氏を変えなければならない中で

親の離婚などで子どもの氏が変わることになった場合、親が子どものために氏を変えない方がよいと判断することもある。また、子ども自身が「苗字を変えたくない」などと自ら希望する場合もある。

その場合、結婚の際に氏を変更した側は、たとえ元の氏に戻りたいと願っても、子どもの意思を尊重することが少なくない。離婚時の子どもの年齢によっては、子どもが巣立った後に結婚前の元の氏に戻そうと思ったとしても、本決定のように婚氏を称する期間が長期間に及び、氏が社会的に定着したとみられてしまう可能性はある。

近年、結婚する際にどちらかの氏を選ばなくてはならないことを疑問視する声もあり、選択的夫婦別姓制度が関心を集めている。制度の実現に向けて、さまざまな動きもみられるが、現状では結婚して夫婦になった場合はどちらかの氏を称することになる。

そのような中で「やむを得ない事由」をどのように判断していくのか。本決定は参考になるといえるのではないだろうか。

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