三宅:なるほど、突き詰めて、一言で言えるところまで昇華させろということですね。逆にそれだと現場の人も納得してくれるぞと。
玉井:「何とかの定理に基づいて、この計算式を使って、摩擦係数はいくつで……」と説明しても、現場では誰も聞いてくれません。その係長とは入社して5年以上、一緒に仕事をしました。残念なことに40代で亡くなりましたが、今でも係長の存在がいちばん大きかったと思っています。さて、話を聞いてもらえるようになると、仕事が面白くなります。今ある設備をどう改善するかという話から、徐々に新しいプラントの建設にも携わるようになりました。
入社6年目で実現させた新システム
三宅:どんな仕事が特に印象に残っていますか?
玉井:入社6年目に、ガスタービンを使った発電機を設置したことです。オランダのロイヤル・ダッチ・シェルの本部から、エナジーコンサベーションスタディという5~6人のチームが川崎製油所にやってきて、省エネや設備改善について提言をしました。製油所では大量の電気を使いますが、その頃の自給率は20~30%でした。それを100%にしようということになったのです。
三宅:自給率20%を100%にですか? どうやってやるのでしょう。
玉井:ガスタービンコンバインドサイクルといって、ガスタービン、排熱回収ボイラー、蒸気タービンを組み合わせて発電する仕組みです。ただ、当時のガスタービンは止まってしまうことも多く、不安がありました。もしガスタービンが止まって蒸気がなくなると製油所は深刻な事態になりますから、当然、現場は反対です。しかも当時はまだ売電ができなかったので、少しだけ電気を買って、ギリギリのところで制御するシステムを作ることにも取り組みました。
三宅:そのアイデアは玉井さんが出したのですか?
玉井:そうです。こうすればできるはずだというコンセプトを考えて、三菱重工業に作ってもらいました。現場の人たちと、こういうことができないかといろいろ話しているうちに、だんだん皆さんその気になってきて、最終的には現場のベテランの皆さんがたいへん頑張ってくれました。結果として、考えていたような性能と制御が実現できたし、ガスタービンも信頼性の高いものになり、ほとんど止まることはありませんでした。
三宅:電力を安く調達できる新しい仕組みができて、エナジーコンサベーションスタディのチームの顔も立って、シェルからも現場からも認められる結果を出したということですね。それにしても製油所としては相当大きな変更ですね。
玉井:そうですね。そして製油所の電気や蒸気を使って、どうすれば最も効率的になるかをモデル化ができたというわけです。
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