任天堂3代目「娯楽は二番煎じではダメ」の真意 山内氏「必需品なら二番手でも安い方が売れる」
山内とのやり取りは、その後も困難を極めた。娯楽品を作る難しさを問えば、そっけなく「さあ、わかりませんな」。ブームを生み出す「空気」を察知するノウハウはあるのでしょうかと尋ねると、「ありませんよ、そんなもの。あったら教えてほしいくらいです」――。
しかし、私がしつこくエンターテインメント産業の難しさについて聞き続けると、それまで取材がいかにも迷惑そうだった山内が、熱っぽい口調で語り出したのだ。
「ほかの産業、必需品の世界では、まねばかりして巨大企業になった例もある。けれど娯楽の世界ではそれができない。はじめは売れたとしても、ファンにはすぐわかってしまう。人のふんどしで相撲を取るような商法がしにくい。これが誠にいいところであります」
「人のふんどし」で成功した企業を、私はたくさん見てきた。対して任天堂は、まさしく自主開発で伸びた企業であった。それにしても、なぜ任天堂はゲーム市場で圧勝できたのか。
「まさに、任天堂が『娯楽屋』だったということです」
山内は眼鏡の奥で微笑して言った。
「ファミコンの勝負どころは、とにかく表現の素晴らしさ、きれいさ、楽しさですね。ところがほかのメーカーは、ゲーム用ではなく、ビジネス用のハードを使っている。ビジネス用のマシンは、映像がそんなにきれいでなくてもいい。それに対してゲーム用は、一も二もなくディスプレイの即時性と美しさが大事なのです。その点が根本的に違う」
その説明はわかりやすかった。任天堂はゲームに徹しただけに操作が簡単。たしかに「表現の素晴らしさ、きれいさ、楽しさ」もあった。ここまできて山内は、堰を切ったように話し出した。
「何よりも大事なことは、娯楽というのは飽きられるものだということ。ここが必需品と根本的に違うわけです。そして必需品ならば二番手でも安いほうが売れます。しかし娯楽は二番煎じではダメです。たとえ安くても売れない。トップランナーでないといけません。だから、二番煎じで安いものを作るというやり方でやってきた大手の必需品メーカーには、娯楽のソフトウエアを作るのは無理ですよ」
山内は、「娯楽ソフトを作るというのは、つまり映画や音楽を作るアーティストの仕事、才能に似ている」と説明した。それは、あくまでも淡々と答えていた山内が、「娯楽」という生業に対する内なる強烈な自負と自信をのぞかせた瞬間であった。
日産自動車最高執行責任者・カルロス・ゴーンの名言
みんなが私に期待したのは、結果だけです。再建のやり方ではない。やり方はいくつもありますが、結果は1つです【カルロス・ゴーン(日産自動車最高執行責任者)】
日産自動車という会社は、バブルが弾けて以後、日本のダメ企業の象徴だった。私は何度も社長や社員を取材したが、「これはダメだ」と思うことがしばしばあった。
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