「疫病の記憶」を紡ぐイタリアと日本の教育差

絵画からも両国での捉え方の違いが見えてくる

外で授業を受けるイタリアの子どもたち(写真:ロイター/アフロ)
イタリアでは子どものときから、教育のなかで疫病について学ぶ機会があります。例えば、中学校の国語の授業では、アレッサンドロ・マンゾーニの歴史小説『いいなづけ』が、必須図書とされています。物語の舞台は、スペインに支配されていた17世紀の北イタリア。そこにはペスト(黒死病)のパンデミックについての描写が綴られています。漫画家で文筆家のヤマザキマリ氏の新著『たちどまって考える』を一部抜粋・再構成し、イタリアの教育事情を紹介します。

19世紀のイタリアに生きたマンゾーニは、イタリア通貨がリラだった時代には紙幣に肖像が描かれていたほどとてもポピュラーな作家です。義務教育の段階で誰しもが接するという意味で、日本人にとっての夏目漱石のような存在とも言えるかもしれません。

もちろん歴史の授業でも、過去に起きたパンデミックによって社会がどう変わったかということを学びます。古代から現代にかけて、代表的なものがいくつかありますが、古いものであればヨーロッパ世界の礎である古代ローマを襲った「アントニヌスの疫病」でしょうか。

ローマの安泰を崩したアントニヌスの疫病

紀元165年、マルクス・アウレリウス・アントニヌスが皇帝だった時代に始まったこのパンデミックは、当時彼のお付きのギリシャ人の医者ガレノスが記録した症状からすると、どうやら天然痘だった可能性が高い。また歴史家ギボンは、このパンデミックがのちのローマ帝国の脆弱化、衰退の大きなきっかけになったと記述しています。

アントニヌスは五賢帝の最後の1人で、『自省録』という著書が今なお読まれている"哲学皇帝"と呼ばれる人物です。映画『グラディエーター』(リドリー・スコット監督)で悪徳皇帝コモドゥスの父として登場したと言えば、思い出す方もいるのではないでしょうか。

映画では息子に殺されるというドラマチックな展開になっていますが、実際は皇帝自身もこの疫病に感染し、亡くなったとされています。そしてこのアントニヌス帝の死によって、非常に優れた頭脳で治世した五賢帝たちの時代は終わりを告げ、彼らが築いたローマの安泰が徐々に崩れていくことになります。

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