韓国の巨星墜つ、サムスン李健煕会長の功罪 日本との関係土台に世界へ。一族支配に変化も

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かつて、サムスングループの支配構造は、「循環出資」という形で成立していた。要は、グループ内で株式を持ち合うことで、決して大株主ではない創業家一族がグループの経営権を握れるようにするものだ。その過程で、李氏をはじめ創業家はさまざまな問題とスキャンダルを生み出してきた。

たとえば2017年、朴槿恵(パク・クネ)前大統領による「国政不正介入事件」がそれだ。この事件は、朴大統領が知人を不当に政治に参加させ、便宜を図っていたという事件だった。ちょうどその頃、李氏が倒れた後に李一族が経営権をどう保有し続けられるかという問題がのしかかった。ほかの大株主との調整や保有株主にかかる相続税負担をどう解決すべきか、という問題だ。

そのために、政治の手を借りざるを得なくなり、李副会長が朴大統領にそれを求めようとして国政不正介入事件に巻き込まれた。贈収賄や横領などの罪で李副会長は逮捕、起訴された。現在も裁判中で、判決次第では李副会長は収監される可能性もある。

相続税対策と司法リスクが焦点に

李氏が亡くなったことで、企業支配構造に関する問題が再び注目されそうだ。というのも、李氏が保有していた株式の行方に加え、創業家が相続するのであれば約18兆ウォン(約1.7兆円)という巨額の相続税が発生し、その支払い能力の問題が出ているためだ。

サムスングループの中核企業はサムスン物産であり、李氏は発行済み株式の2.90%を、李在鎔氏は17.48%を保有している。これを基に、李副会長→サムスン物産→サムスン生命→サムスン電子と続くサムスングループの支配構造を維持することができていた。

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しかし、李氏の死去により相続税が課税されることになれば、単純計算で約10兆ウォン(約9300億円)の相続税を支払うことになる。創業家の資産のほとんどは保有株式であり、現金は相対的に少ないと言われている。また、グループ中核企業の一つであるサムスン生命の株式のうち創業家は57.25%を持つが、そのうち李氏は20.76%を保有している。相続税の支払い方法によっては、支配構造が変わることによる経営への影響も取り沙汰されることになる。

また、サムスン創業家が抱える「司法リスク」も今後、無視できない。前述の国政不正介入事件の裁判が進んでいる中、今後も不自然な形で創業家の支配を維持しようとすれば、財閥に対して常に厳しい視線を向ける世論の反発がさらに高まるだろう。李在鎔氏は2020年5月に国民に向けてこれまでのスキャンダルについて謝罪し、「息子への経営権世襲は行わない」との宣言まで行った。支配構造の問題を透明な形で解決・整理しなければ、サムスンの事業活動にも支障を来しかねないだろう。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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