改修だとコスト半分、国立競技場の重大岐路 解体工事は7月開始予定。土壇場の大逆転はなるか

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公表されたのは、現競技場の聖火台とは反対側のスタンド約4割を撤去し、2段または3段のメインスタンドと固定屋根を新たに造り、8万人の収容条件を満たす案。サブトラックは敷地南側に新設する。コスト高の要因となっているコンサートなどの利用は想定しない。

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5月12日、改修案を説明する伊東氏(左)と中沢氏(撮影:今井康一)

示されたイメージは配置やボリュームを当てはめた必要最小限の検討図。伊東氏らしい「軽さ」や斬新なデザインを期待していた向きには肩すかしだったろう。

伊東氏は「改修をするなら誰が考えてもこれに近い形になるのでは。シンプルでローコストでいい。費用は現在の1800億円ほどの計画に対し、ラフに見て半分で済むだろう。ただし、私自身がこれを進めていくつもりはないし、そういう立場にはない」と強調。傍らの中沢氏は「伊東さんが触媒となり、国民的な議論が広がることを期待したい」と述べた。

現在の案は設計で難航

槇氏に続く「ダブルパンチ」を受けた格好のJSC側は、「伊東氏の改修案は内部で正式に検討していない。担当者がまだ取材に応じられない」とする。

当初の壮大な案は、すでに段階的に縮小されてきた。3000億円ともされた総工費に国が難色。鉄道線路をまたぐアプローチや付帯設備などは削られ、床面積は2割以上減った。それでも設計は難航が伝えられ、大手設計会社のJVが担当している基本設計は予定の3月末を過ぎてもまとまっていない。JSC側は2月の東京での大雪を受け、開閉式屋根の耐久性などを再検討する必要が生じたからだとし、5月中に基本設計を完了、7月から予定どおり現施設の解体を始めるとする。

だが、「今のままではとてもまとまらないだろう」と見るのは、この問題で精力的に発言する建築エコノミストの森山高至氏だ。

「積雪加重を今さら再検討すること自体がおかしい。もっと根本的な技術上の問題が多く、大幅に変更せざるをえないのだろう。それをザハ氏側が納得できるか。何とか基本設計がまとまったとしても見積もり計算も大変な作業になる。どのゼネコンも引き受けたくないのではないか」

森山氏はこうした“破綻”を見込み、伊東氏の提案をベースに若手建築家らによる「改修案コンペ」を同時進行させ、建て替え計画の行き詰まりと同時に改修案が採用される「大逆転」のシナリオを描く。

市民グループが情報公開で入手したJSCの内部資料によれば、現競技場の大規模改修は3年前に検討されていた。JSCが設計会社に詳細な耐震補強調査を依頼し、7万人収容規模の改修工事でも4年の工期で総工費770億円ほどだと試算している。

森山氏は「このデータを基にすればさらに現実的な改修案を作成できる。これまで日本は古い建物の技術や資産を評価する制度がなく、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返してきた。それらを見直す契機にもなる」と指摘する。

伊東氏はこう訴える。「野球で言えば9回2死の土壇場。しかし21世紀のわれわれが何をすべきか。もう1回考え直すラストチャンスだ」。

週刊東洋経済2014年5月24日〈5月19日発売〉核心リポート04)

関口 威人 ジャーナリスト

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せきぐち たけと / Taketo Sekiguchi

中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で環境、防災、科学技術などの諸問題を追い掛けるジャーナリスト。1973年横浜市生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科修了。

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